全 情 報

ID番号 04729
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 清風会光ケ丘病院事件
争点
事案概要  病院労組の提供した情報により県議が県議会で病院にかかわる発言をなしたが、右発言内容が虚偽、歪曲的なものであるのに新聞、テレビで報導されることにより病院の名誉、信用が傷つけられたとして、右情報を提供した労組の委員長がその責任を負うべきであるとして懲戒解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
裁判年月日 1989年3月23日
裁判所名 山形地酒田支
裁判形式 決定
事件番号 昭和63年 (ヨ) 47 
裁判結果 認容
出典 労働判例541号73頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
 疎明によれば、申請人が執行委員長を務めている病院労組は結成直後から被申請人の医療体制について批判し、これを追及する内容の文書を多数発行したばかりでなく、県当局や労働基準監督署長等に対し行政機関としての監督権の行使及び指導を求めていたこと、A県議と同じ日本共産党に所属するB県議会議員も厚生常任委員会において被申請人の医療体制について質す趣旨の発言をしたことがあり、そのころ病院労組発行の文書に右委員会における追及発言についての記事が掲載されたことがあること、その他病院労組が被申請人追及のため一部報道機関や県議会議員等の協力を求めていることを窺わせる記事が労組発行の文書に掲載されたことがあることが一応認められるものの、今回のA発言との関連性については、右の諸事情を参酌してもA県議が調査する過程において申請人ないし病院労組が何らかの関与をした可能性を示唆するだけで、どのようにして関与したかを具体的に疎明するに足りる資料はなく、また、右(2)についても、申請人でなければ同県議に情報を伝えることができないとまでは疎明されておらず、更に、(3)他の従業員が被申請人による事情聴取に対していかなる根拠に基づき具体的にどのような供述をしているのか明らかでないので、結局、本件全証拠によっても、申請人ないし病院労組がA発言がなされるに先立ち同県議に対し情報提供してこれを教唆・慫慂したとかこれに密接に協力したことを疎明するに足りる証拠はないものといわなければならない。
 (二) 次に、被申請人の主張2(二)の事由につき検討するに、それが本件懲戒解雇をなした当時、その処分理由としては従たるものに過ぎなかったことは(証拠略)(本件の解雇通知書)の記載に徴し明らかである上、(証拠略)によれば、被申請人は、本件懲戒解雇に先立ち、昭和六一年八月には従前の病院労組の言動に不適切・不穏当な点があったとして労組に謝罪文を提出させ、また、昭和六二年一一月から翌六三年八月にかけて多数回にわたり申請人に職場秩序紊乱行為や被申請人に対する誹謗・中傷の所為があったとして戒告や減給の処分を科していたことが一応認められ、これによれば被申請人としてもA発言問題がなければ申請人や病院労組の言動については右の程度の処置で賄おうと考えていたと推認されるのであり、したがって、前記A発言への関与が疎明されない以上、それ以前の言動のみをもって懲戒解雇事由とすることは許されないというべきである。
 (三) そうすると、本件懲戒解雇事由たる事実については疎明がないことに帰することになるので、右懲戒解雇は、就業規則の懲戒解雇条項の適用を誤ったものというべきであり、したがって、その余の点につき判断するまでもなく無効であるから、申請人は、被申請人に対し、本件雇用契約上の権利を有するものといわなければならない。