全 情 報

ID番号 04738
事件名 雇用関係存在確認請求事件
いわゆる事件名 明治大学事件
争点
事案概要  大学教員の雇用契約につき、六五歳定年制のもとで、定年到達後は七〇歳まで毎年教授会の議を経て一年ごとの雇用を継続する取り扱いがなされていたのに対し、三年間継続雇用されたがその後雇用されなかった大学教員が実質七〇歳定年制であったとして二年間の賃金を請求した事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 退職 / 定年・再雇用
裁判年月日 1989年3月31日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和60年 (ワ) 9258 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1358号14頁/労働判例539号49頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-定年・再雇用〕
 被告Y大学工学部の大学院専修科目担当教授の停年が当時満六五年と規定されていたこと前記のとおりであるから、右規定に反し特に原告との雇用契約において停年を満七〇年とする約定を締結することは、特段の事情がない限りあり得ないことであるところ、前掲証人A、同Bの各証言及び原告本人尋問の結果によれば、Bは被告から原告と雇用契約を締結する権限を与えられていたものでも、停年を満七〇年と説明することを許容されていたわけでもなく、しかもBと原告の折衝が本件雇用契約締結のための準備行為にすぎないこと前記のとおりであるから、Bの前記説明があったこと及び原告が右の言を信じて本件雇用契約を締結したとしても右事実のみから直ちに右契約に停年を満七〇年とする特約が存したとすることはできない。
 〔中略〕
 大学院専修科目担当教授の停年は満七〇年であるとする認識が誤解にすぎなかったことはさきに認定したところから既に明らかであり、また原告が停年延長を認められなかったために、前記改定にかかる規則の適用を受けられず、その結果右規則の適用を受け得る者と比較し少なくとも結果的には不利益を受けたことは否定し難いところであるが、かかる事態は制度の改定又は新制度の導入に伴って多かれ少かれ必然的に生ずるものであってやむを得ないものといわなければならないものであるから、被告が原告を前記日時をもって停年により退職させたことを権利の濫用とすることは相当でない。
 〔中略〕
 右認定にかかる事実によれば、被告のY大学工学部大学院工業化学専攻内及び工学研究科委員会においては昭和五九年、六〇年度の原告の停年延長について学問研究及び教育技術上の観点から後任者を得難いか否かにつき実質的審議を行っていたものというべきであり、また教授会においても右審議結果を受けて相当の審議を尽くしていたことが明らかであり、これに当該対象者の停年延長を相当とするか否かは専門的知識ないし判断に基づいてなされる必要があることからこれを行い得る専攻内及び工学研究科委員会の意向が尊重されてしかるべきであることを総合考慮すると、原告の停年延長問題については十分な審議が行われたものといわなければならない。