全 情 報

ID番号 04739
事件名 雇用契約関係存在確認等請求事件
いわゆる事件名 国鉄職員事件
争点
事案概要  町議会議員に立候補し当選した国鉄職員が公選法の規定を根拠に失職したものとされたことに対し地位確認の訴えをした事例。
参照法条 日本国有鉄道法26条2項但書
公職選挙法103条1項
体系項目 退職 / 失職
裁判年月日 1989年3月31日
裁判所名 仙台地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ワ) 296 
裁判結果 棄却
出典 労働判例537号6頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-失職〕
 原告は、公選法一〇三条一項による失職の効果は、国鉄法二六条二項但書該当の事案においては、当選の告知を受けた職員からの兼職の申出に対する総裁の適法な不承認があって初めて生ずると主張する。しかしながら、右各条項の文言に即して解釈すれば、国鉄総裁の承認がない限り議員との兼職は認められず、兼職承認がない以上「法律の定めるところにより……議員……と兼ねることができない職に在る者」に該当するというほかないのであるから、職員は市町村議会議員の当選の告知前に総裁の承認を得ていない限り、告知を受けた日に当然職を失うものと解すべきである。
 〔中略〕
 国鉄法二六条二項の改正は、国鉄職員について町村議会議員との兼職を許容しながら市議会議員との兼職を禁止していたそれまでの原則を改めることを目的としたものであり、ただ無条件に兼職を可能とすると国鉄の業務運営上相当でない結果を招来する可能性が考えられるため、総裁の承認を得た者に限って兼職を認めることとしたのである。
 そして、兼職申出に対する承認について、国鉄法の上で、総裁の判断を羈束するような条項は存在しないので、当選人からの兼職申出に対し総裁がこれを承認するか否かは、その自由裁量に委ねられていると解すべきである。もとより、その判断に当たり、労働基準法その他の労働関係法規を尊重し、慎重に検討するのが望ましいことはいうまでもないが、そうだからといって原告主張のように、業務遂行に著しい支障のない限り承認すべきであるとの解釈は、公選法と国鉄法の各条文の解釈を逸脱したものといわざるをえない。
 〔中略〕
 前記兼職基準規程三条、五条を、職員が市町村議会の議員に当選したときは総裁の承認がない限り職員の地位を有することはできないとしている国鉄法二六条二項と総体的に把握すれば、右兼職基準規程の取扱は、職員が市町村議会の議員に立候補したときは、所属長において当選の際に兼職の承認をなしうるや否やを事前に審査し、適宜の指導ないし承認の内示をなしうる体勢にしておいて、職員が当選後兼職を認められないこととなる場合に生じるであろう困惑や混乱を未然に防止するとともに、当選者に対しては兼職を認めるのを相当とする場合にのみ事後的に承認を与えることとしたものであると解釈すべきである。右に判示した実際における運用の実状は、従前、当選者の兼職を不承認とする例が殆んどなかったため、事前の措置を講じなくても何ら混乱が生じる虞れがなかったことによるものにすぎないというべきである。
 〔中略〕
 総裁は兼職承認に関する判断において諸般の事情を総合考慮して決することができるのであるが、先に判示したとおり当時国鉄の置かれていた厳しい経営状況及び国鉄に対する厳しい批判の中で、国鉄が再生を図るために兼職の一律禁止を含めた緊急措置を採ったことには合理性があるというべきである。したがって、右不承認措置に違法無効の廉はない。