全 情 報

ID番号 04740
事件名 地位保全金員支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 宮本建材事件
争点
事案概要  生コン運転手Mが、窓をあけて後退運転をするべきであったのにしなかったこと、念書で誓約した再発防止誓約に反した反抗的態度をとったこと等、また同Tが取締役の腕をとって車の方へ引っぱっていった暴力行為を行なったことを理由に懲戒解雇されその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1989年3月31日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成1年 (ヨ) 564 
裁判結果 認容
出典 労経速報1371号22頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 (1) 本件事故の態様は、申請人X1が、昭和六三年一〇月二一日午前一〇時二〇分ころ、豊中市内のA会社の現場において、生コン車を運転し、被申請人のB課長(以下、「B課長」という)の笛による誘導でこれを後退させていたところ、同現場に停車中のポンプ車のホッパー(生コン注入部分)右端に右後退中の生コン車の左フェンダーの端を接触させ、右ポンプ車のホッパーの縁を損傷させた程度のものであったこと、本件事故の際、申請人X1は、運転免許の条件として眼鏡の使用を義務付けられていながらこれを使用していなかったし、また、運転席の窓を開けずに生コン車を後退させていたこと、しかし、本件事故により、接触されたポンプ車はもとより工事現場の作業についても何等支障も発生していなかったし、その後も、本件事故に関しA会社からの抗議その他紛争もなかったこと、
 〔中略〕
 (二) ところで、被申請人は、申請人が故意に業務命令に違反(眼鏡の使用及び生コン車の窓を開けて後退運転をしなかった違反)したこと及び本件念書で約した再発防止誓約に反した反抗態度を懲戒解雇事由とするが、前認定の事実によれば、本件事故は偶発的、かつ、その程度も軽微なものであって、故意に業務命令に違反したものと解することはできないし、また、再発防止誓約に反した反抗的態度があったとも認められない。
 したがって、被申請人の申請人X1に対する本件懲戒解雇はその懲戒事由が認められないから、その余の点について判断するまでもなく無効である。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 被申請人は、申請人X2の懲戒解雇事由として、同申請人に反省の意思が全くないこと、同申請人が暴力的危険であり雇用を継続することは恐ろしいこと、信頼していた関生支部が同申請人に反省させ収拾を図る意思がないことを挙げているので、この点について検討するに、前認定の事実によれば、本件行為がCの意思に反してなされたことが明らかであり、その意味では有形力の行使として違法なものということができるが、前認定の本件行為の態様に審尋の全趣旨を総合すると、申請人X2が暴力的で危険であり、雇用を継続することが恐ろしいほどの性格を有しているとは、到底解し得ない。
 他方、そもそも使用者がその雇用する従業員に対して課する懲戒は、広く企業秩序を維持確保し、もって企業の円滑な運営を可能ならしめるための一種の制裁罰であると解されるから、懲戒として従業員を企業から排除する懲戒解雇は、それ以外に企業秩序の維持及びその円滑な運営が図れない等の違法性の高い事由のある場合に限られるというべきであるところ、前認定のとおり、本件行為は、一応違法な暴行ではあるが、その行為の態様、被害の程度等一切の事情を考慮すると、仮に、被申請人主張のような事情があるとしても、行為者である申請人高須賀を企業外に排除しなければならないほどの違法性の高いものと解することはできない。
 したがって、被申請人の申請人X2に対する懲戒解雇は、その懲戒解雇事由が認められないから、その余の点について判断するまでもなく無効である。