全 情 報

ID番号 04741
事件名 雇用契約不存在確認本訴請求/賃金請求反訴請求事件
いわゆる事件名 壬生寺保育園事件
争点
事案概要  一年の期間を定めた保母に対する雇用期間満了による雇止めの効力、予備的に解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法20条
労働基準法14条
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 無届欠勤・長期欠勤・事情を明らかにしない欠勤
解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 1989年4月6日
裁判所名 京都地
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (ワ) 157 
昭和61年 (ワ) 2523 
裁判結果 本訴棄却,反訴認容
出典 労働判例538号13頁
審級関係
評釈論文 久米弘子、中村和雄、村松いづみ、吉田容子・労働法律旬報1218号4~8頁1989年6月25日
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 以上の事実に前述のとおり、現員保障により常勤職員の定数が減少しても二名までは一年間常勤職員として保障されること、また、年度初めに定数が減少しても一〇月一日までに入園児数を増やし定数を満たせば、さらに次年度も現員保障が受けられることを併せ考えれば、少なくとも本件保育園では被告を一年の期限付で雇用する必要性はほとんどなかったといわざるを得ない。
 六 一年の期限の有効性
 右のとおり、原告には被告を一年の期限付雇用とする必要性がほとんどなかったことが認められるが、これに加え、
 【1】 証人A及び同Bの各証言によれば、他の保育園では一年の期限付雇用の職員を常勤職員としてプール制に登録した場合は、できるだけ期限の定めのない職員と同額の給料を支払ったり、共済等に加入させたりして、期限の定めのない職員と同様に扱おうとしていたことが認められるにもかかわらず、原告は被告を常勤職員として登録し期限の定めのない職員に対するのと同額の人件費の支給を受け、後述のとおり被告を期限の定めのない職員と同様の労働に就かせながら、一方被告に期限の定めのない職員よりも低い日給制による給料しか支払わず、明らかにプール制の趣旨に反する取扱いをしていたこと、
 【2】 証人Bの証言によれば、同人経営の保育園において一年の期限付で雇用した保母のうち、約半数はうまくいかないと思ったら一年で退職してもらい、他の者はその後期限の定めのない職員として継続して雇用していることが認められ、これは一年の期限付雇用を試用期間と同様に扱っていることがうかがえること、本件保育園においても、前述のとおり原告は、C及びDに対しては採用の当初は期限の定めのある雇用契約を締結していながら、明確な意思表示のないまま途中で扱いを期限の定めのない職員と同等にしたり、退職者が多数出て定数に欠員が生じるにもかかわらず、一年の期限付で雇用した三名の保母のうち被告に対してのみ雇止めをしようとしたこと、これらの点からすると、原告は一年の期限付雇用を試用期間と同様に考えていたことが推察されるが、成立に争いのない乙第三号証によれば、本件保育園の就業規則五条において試用期間は六〇日と定められていることが認められ、一年の期限付雇用は右就業規則を潜脱する結果となり、職員の地位を不当に不安定にしていると考えられること、
 以上の各点を併せ総合すると、被告の雇用契約に一年の期限を付したことは、著しくプール制及び法の趣旨に反するものであるから、原告被告間の雇用契約のうち一年の期限の労働条件は無効と解するのが相当である。
 もっとも、前述のとおり、保育園によれば、一年で一挙に常勤職員の定数が五名も減少し現員保障があっても一年の雇用期間で職員を退職させなければならないような場合もあることが認められる。しかし、そのような事態も経営者の努力により入園児の年齢構成を変動させないようにするなどして避けることもでき、仮に努力してもそのような事態が避けられなければ、保育園の収入が公費のみに頼り一定限度の資金しかないのであるから、整理解雇の法理を類推して解雇も認めることができ、原告被告間の一年の期限付雇用を無効としても原告に不当な義務を課するものとは言えない。
〔解雇-解雇事由-無届欠勤〕
 以上の事実によれば、被告の労働条件は労働基準法にも反するほど相当劣悪であり、被告の欠勤の多くはその劣悪な労働条件に原因があるということができるところ、原告はその労働条件を改善する経済的余裕は充分あったにもかかわらず、それを怠ったと認めることができる。したがって、被告の欠勤の多くは原告に責任があるということができるから、そのような欠勤を解雇事由とすることは解雇権の濫用というべきであり正当な解雇とはいえない。