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ID番号 04764
事件名 懲戒処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 名古屋鉄道郵便局職員事件
争点
事案概要  鉄道郵便局職員の年休取得申請につき業務の正常な運営を阻害するとして時季変更権が行使されたにもかかわらずそれを無視して欠勤したことにつき減給処分がなされ、右職員が右処分の効力を争った事例。
参照法条 労働基準法39条1項
労働基準法39条2項
労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 時季変更権
裁判年月日 1989年5月30日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 昭和59年 (行コ) 8 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働民例集40巻2・3号393頁/時報1328号116頁/タイムズ716号90頁/訟務月報35巻12号2367頁/労働判例542号34頁
審級関係 一審/01363/名古屋地/昭59. 4.27/昭和50年(行ウ)29号
評釈論文 野間賢・季刊労働法153号196~197頁1989年10月
判決理由 〔年休-時季変更権〕
 1 一般に、年次有給休暇の権利(以下「年休権」という。)は労基法(当時施行のもの。以下同じ。)三九条一、二項の要件の充足により法律上当然に生じるものであるから、労働者がその有する年休の日数の範囲内で始期と終期を特定して休暇の時季指定をしたときは、使用者が適法な時季変更権を行使しない限り、右の指定によつて年休が成立して当該労働日における就労義務が消滅するのであつて、そこに使用者の年休の承認等を考える余地はない。この意味において、労働者の年休の時季指定に対応する使用者の義務の内容は、労働者がその権利としての休暇を享受することを妨げてはならないという不作為を基本とするものにほかならないのであるが、年休権は労基法が労働者に特に認めた権利であり、その実効を確保するために附加金及び刑事罰の制度が設けられていること(同法一一四条、一一九条一号)等に鑑みると、同法の趣旨は、使用者に対し、できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすることを要請しているものというべきである。
 それ故、本件においては後記認定のように名古屋鉄郵局における被控訴人の勤務内容は四週間を一つの期間として予め当該期間の一週間前に指定されることになつていたものであり、被控訴人の本件年休時季指定権の行使は、右の昭和五〇年三月一三日から同年四月九日までの間の勤務割によつて定められていた勤務予定日についてなされたものであるが、しかしながらこのような場合であつても、なお使用者は労働者が休暇を取ることができるよう状況に応じた配慮をなすべきことが要請されていることに異なるところがないとみるべきである。
 そして、労基法三九条三項但書にいう「事業の正常な運営を妨げる事由」の存否は、一般的には、当該労働者(年休請求者)の所属する事業場を基準として、事業の規模、内容、当該労働者の担当する仕事の内容、性質、繁閑、代替勤務者の配置の難易、時季を同じくして年休を請求した者の人数等諸般の事情を考慮して客観的、合理的に判断されるべきものである。
 本件においては、予め勤務割による勤務体制がとられていた事業場における時季変更権が問題になつているのであるから、代替勤務者の配置の難易は前記事由を判断するにあたつて特に重要な要素になることは明らかであり、したがつて本件において使用者が通常の配慮を払つたかどうか、そしてこれを払つていれば、勤務割を変更して代替勤務者を配置すること(本件にいう服務差繰)が客観的に可能な状況にあつたかどうかが慎重に吟味されるべきである。
 〔中略〕
 (一) 先ず年休取得者を服務差繰の後補充の対象から除外した第一審被告の措置が適法、かつ妥当なものであつたことについての当裁判所の判断は次のとおり付加するほか、すなわち、「すでに取得された年休が後に請求された年休のために変更されるべきであるとするときは、かえつて年休の取得につき不安定な状態を招くことになり、これが労基法等の精神にもとるものであることは見易い理である。」と付加するほか、原判決の理由(原判決一一四丁表七行目の「まず、」から一一五丁表一〇行目まで)と同一であるからここにこれを引用する。
 〔中略〕
 一般に、労基法上、週休と年休との優劣関係を明示する規定は見当らないけれども、同法上、週休についてはいわば無条件でこれが与えられるべきものとされる(同法三五条)のに対し、年休については一年間の継続勤務及び全労働日の八割以上の出勤が、いわばその付与の前提とされている(同法三九条)こと、前者については労働者の請求をまたないでも与えられるべきものとされるのに対し、後者についてはその請求を要すること、前者については問題とならない業務支障が後者については(本件でも問題となつているように)これがある場合にはこれがなくなるのを待つて年休を与えれば足りるとされていること等に鑑みると、同法は、少くとも、年休が週休に優先するものでないことを暗黙に示しているとみることができる。
 また、被控訴人が所属する第二乗務課乗務係においても、基本線表勤務者についてはもとより予備線表勤務者についても、後記のとおり本件のような一般の年休を付与するために他の週休者の週休日を変更することを通例としていなかつたことが認められるのである。
 〔中略〕
 以上の認定説示のとおり、A課長及びB代理らはCに対する事情聴取が必要であり、かつそれは一挙手一投足の労をもつて容易にできたのにこれをしないまま本件服務差繰の後補充が困難であるとして本件時季変更権を行使したものであり、しかも、若し右の事情聴取をした上、Cの二四日の非番日を変更して服務差繰をしていたならば被控訴人に対しその請求どおりの年休を付与することが可能であつたのであるから、第一審被告は本件時季変更権の行使につき被控訴人が指定した時季に年休がとれるよう適切な配慮をしたものといえず、結局第一審被告のなした本件時季変更権の行使は違法であるといわざるをえない。