全 情 報

ID番号 04784
事件名 懲戒処分無効確認等請求事件
いわゆる事件名 電々公社関東電気通信局事件
争点
事案概要  年休の時季指定に対する使用者の時季変更権の行使にもかかわらず欠務したことを理由とする懲戒戒告処分の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法39条3項但書(旧)
体系項目 年休(民事) / 時季変更権
裁判年月日 1989年7月4日
裁判所名 最高三小
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (オ) 1555 
裁判結果 棄却
出典 民集43巻7号767頁/時報1352号146頁/タイムズ731号82頁/訟務月報36巻3号463頁/裁判所時報1006号3頁/労働判例543号7頁/労経速報1368号15頁/金融商事833号34頁
審級関係 控訴審/03079/東京高/昭62. 8. 6/昭和60年(ネ)3628号
評釈論文 高橋利文・ジュリスト962号92~94頁1990年9月1日/高橋利文・法曹時報42巻8号157~180頁1990年8月/山口浩一郎・平成2年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊762〕352~353頁1991年9月/秋田成就・民商法雑誌102巻1号91~103頁1990年4月/小宮文人・月刊法学教室112号100~101頁1990年1月/上村雄一・経営と経済〔長崎大学〕69巻4号279~291頁1990年3月/森晃憲、稲福具実・教育委員会月報472号24~28頁1989年12月/長淵満男・判例評論38
判決理由 〔年休-時季変更権〕
 労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三九条三項ただし書は、使用者は、労働者がした年次休暇の時季指定に対し、その時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができると規定し、使用者の時季変更権の行使を認めている。右時季変更権行使の要件である「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するか否かの判断において、代替勤務者確保の難易は、その判断の一要素であつて、特に、勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、重要な判断要素であるというべきである。このような勤務体制がとられている事業場において、勤務割における勤務予定日につき年次休暇の時季指定がされた場合に、使用者としての通常の配慮をすれば、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしなかつた結果、代替勤務者が配置されなかつたときは、必要配置人員を欠くことをもつて事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解するのが相当である(最高裁昭和五九年(オ)第六一八号同六二年七月一〇日第二小法延判決・民集四一巻五号一二二九頁、同昭和六〇年(オ)第九八九号同六二年九月二二日第三小法延判決・裁判集民事一五一号六五七頁参照)。そして、勤務割における勤務予定日につき年次休暇の時季指定がされた場合に、使用者としての通常の配慮をすれば代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあつたか否かについては、当該事業場において、年次休暇の時季指定に伴う勤務割の変更が、どのような方法により、どの程度行われていたか、年次休暇の時季指定に対し使用者が従前どのような対応の仕方をしてきたか、当該労働者の作業の内容、性質、欠務補充要員の作業の繁閑などからみて、他の者による代替勤務が可能であつたか、また、当該年次休暇の時季指定が、使用者が代替勤務者を確保しうるだけの時間的余裕のある時期にされたものであるか、更には、当該事業場において週休制がどのように運用されてきたかなどの諸点を考慮して判断されるべきである。右の諸点に照らし、使用者が通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況になかつたと判断しうる場合には、使用者において代替勤務者を確保するための配慮をしたとみうる何らかの具体的行為をしなかつたとしても、そのことにより、使用者がした時季変更権の行使が違法となることはないものと解するのが相当である。
 〔中略〕
 以上の事実関係によれば、上告人Xが本件時季指定をした勤務予定日に休暇を与えるとすると第一整備課の最低配置人員を欠くことになるうえ、同課においては、従前の労使間交渉の経緯により、従来から、一般職員について週休日の変更は行わないとの運用がほぼ定着しており、そのこととの関係で週休日についての勤務割の変更はほとんど行われず、最低必要人員しか配置されていない土曜日に、勤務割による勤務予定の一般職員が年次休暇を取つたため要員不足を生じた場合には、もつぱら管理者による欠務補充の方法がとられ、その日が週休予定の一般職員に対し、勤務割変更のうえ出勤が命じられることはおよそありえないとの認識が労使間に定着していたが、上告人Xの右勤務予定日については、当時の前記異常事態により管理者による欠務補充の方法をとることができない状況にあつた、というのであるから、このような第一整備課における勤務割変更についての実態、週休制の運用のされ方、当時の異常事態による欠務補充の困難さなどの諸点を考慮すると、上告人Xが本件時季指定をした勤務予定日については、使用者としての通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況になかつたものと判断するのが相当である。したがつて、右の勤務予定日に上告人Xに対し休暇を与えることは、被上告人の事業の正常な運営を妨げることになるものというべく、結局、被上告人の担当課長がした本件時季変更権の行使は適法なものと解するのが相当である。