全 情 報

ID番号 04797
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日証事件
争点
事案概要  金融会社営業社員に対する「通行為」を理由とする諭旨解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
裁判年月日 1989年7月31日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (ワ) 5830 
裁判結果 棄却
出典 労働判例544号13頁/労経速報1374号19頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 1 前段で見たところによれば、原告は、昭和五五年から昭和五九年までの間に、前後五回にわたり、就業規則の定める服務条項に反して、自己の計算で手形の割引を行い、又はその紹介をしたもので、回数も少なくない上に、右紹介に際しては手数料を取得したことがあり、また、自己の計算で手形の割引をする場合に割引料等の利益を取得していることは、取引の態様から容易に推認されるところであって、原告も明らかに争わないところである。結局、原告は、被告の営業社員として、手形の売却、割引を求める顧客と被告を結びつける業務を担当し、その間の成約に応じて一定の歩合給の支給を受けながら、その一方で、自らもまた手形の割引やその紹介をすることによって利益を取得していたことになる。そして、右のような態様の手形の割引及びその紹介は、被告の事業経営の根幹に係わる背任的行為であって、許容される余地のないものであることは、いうまでもない。
 しかも、原告は、A会社の振出しに係る約束手形の割引が判明した機会に、被告に対して顛末書を提出し、以後同じことを繰り返さない旨の約束をしながら、その後も、同種行為を繰り返したばかりでなく、右割引等に関連して、相手方に虚偽の内容を記載した書面を交付し或いは書面でした約束を遵守しなかったなどのため、被告までが使用者責任があるとして提訴されるとか又は直接に苦情が申し入れられる事態も生じたのである。もっとも、被告としては、最終的な責任を負担するには至らなかったが、右のような事態が生じた結果、その名誉や信用を害されると共に、応訴の準備や弁護士費用負担の上で少なからぬ不利益を被ったであろうことは推認に難くないところである。
 〔中略〕
 営業社員が就業規則その他被告の定める諸規則に違反したときは、譴責、降格、減給、出勤停止、諭旨解雇のいずれかに処する旨が定められているところ(二五条)、被告が原告に対する懲戒処分として諭旨解雇を選択したことは、上述した行為の種類、態様、回数、被告に及ぼした不利益及び営業社員としての服務条項の性質、内容等に照らし、誠に止むを得ないところであって、それが解雇権の濫用又は不当労働行為にわたるものでない限り、有効と解するのが相当である。