全 情 報

ID番号 04802
事件名 不当労働行為救済命令取消請求事件
いわゆる事件名 済生会中央病院事件
争点
事案概要  職場集会に警告書を発したこと、看護婦に対する組合脱退勧誘、チェックオフの中止等の使用者の行為を不当労働行為とした労委命令につき使用者が取消を求めた事例。
参照法条 労働基準法24条1項
労働組合法7条1号
労働組合法16条
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / チェックオフ
裁判年月日 1989年12月11日
裁判所名 最高二小
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (行ツ) 157 
裁判結果 一部破棄(自判),一部棄却
出典 民集43巻12号1786頁/時報1334号224頁/タイムズ717号67頁/労働判例552号10頁/労経速報1379号3頁/裁判所時報1017号1頁/金融商事839号22頁
審級関係 控訴審/東京高/昭63. 7.27/昭和61年(行コ)10号
評釈論文 安枝英のぶ・月刊法学教室115号96~97頁1990年4月/岸井貞男・民商法雑誌103巻1号115~131頁1990年10月/宮澤弘・労働経済旬報1411号25~31頁1990年3月5日/佐治良三・最高裁労働判例〔10〕―問題点とその解説447~512頁1991年3月/秋田成就・季刊労働法155号102~117頁1990年5月/小宮文人・平成元年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊957〕221~223頁1990年6月/上條貞夫・月刊労委労協405号29~34頁1990年1月/盛誠吾・日本労働法学会誌76号
判決理由 〔賃金-賃金の支払い原則-チェックオフ〕
 思うに、労基法二四条一項は、労働者の生活を安定させるため、法令に別段の定めがある場合のほか、使用者が賃金の一部を控除して支払うには、「当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合」等との「書面による協定」を要するとした規定であると解される。そうすると、いわゆるチェック・オフも、使用者が賃金の一部(組合費相当額)を控除して支払うのであるから、同項の適用を受けるといわなければならないこととなりそうである。
 しかしながら、
 1 労働組合は、組合員の経済的地位の向上を主たる目的とするものであり、その組合費は当該組合の活動資金源となるので、これを確保するチェック・オフは、通常当該組合員すなわち労働者の利益に合致する(使用者に対しては何らの利益をもたらすものでない。)から、これについて使用者の恣意を抑制し個々の労働者の保護を図るという必要性は存しないといってよい。
 2 そして、「当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合」の締結したチェック・オフ協定であっても、その効力は当該労働組合の組合員以外の労働者には及ばないうえ、右「当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合」という要件を厳格に適用するときは、少数組合がチェック・オフ協定を締結することができなくなる結果、その団結権の実質的保障を損なうおそれがあり、かえって妥当性を欠くこととなるといわなければならない。
 3 また、同項が「書面による協定」を要件としている趣旨は、協定の締結を慎重ならしめるとともに控除の対象となる項目の内容、種類及び限度を明確ならしめて個々の労働者を保護しようとするものと解されるところ、チェック・オフの場合は、毎月継続的に徴収される組合費については種類が単一でかつ控除額がおおむね一定しており、臨時に徴収される組合費についても自ずから一定の限度がある筈であるから、通常の場合、「書面による協定」を締結する必要性はないものというべきである。
 そうすると、チェック・オフについては、「当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合」との「書面による協定」という要件を満たさないものであっても、直ちに労基法二四条一項に違反するものとはいえず、本件チェック・オフも、その例外ではないと考えられる。
 三 しかして、原審の認定によると、本件チェック・オフは過去一五年余にわたってされてきたものであるが、病院は、昭和五〇年五月二〇日支部組合員としての資格を有することに疑いがある者について真実支部組合員でないのかどうかを照会、確認せず、しかも支部組合員としての資格を有することに疑いがない者をも含めて、突然、一方的に、本件チェック・オフを中止することを決定し、賃金支払日である同月二四日一片の通知書をもってその中止を通告したというのであり、また、その当時は昭和五〇年度の春闘の最終段階にあり、五月九日のストライキは回避されたものの未だ妥結に至らず、そのためか病院は、同月一〇日支部組合に対し前記昼休み集会について警告書を交付し、また、同月一二日以降支部組合からの脱退勧誘を繰り返し、同月二二日には、原則として支部組合員以外の従業員に対し四月に遡って新賃金を支給する旨の「お知らせ」を全従業員に配付したというのである。そうすると、本件チェック・オフの中止は、支部組合を財政的に弱体化させることを目的としたものであり、支部組合及び全済労に対する支配介入行為であることは明らかであるといわなければならない。