全 情 報

ID番号 04807
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 大和銀行事件
争点
事案概要  アレルギー皮膚炎に罹患した寮母が右原因は寮長、寮生がたいた「バルサン」によるものであるとして会社に対し安全配慮義務違反等に基づき損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法415条
民法715条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1989年12月20日
裁判所名 福岡地飯塚支
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ワ) 20 
裁判結果 棄却
出典 労働判例560号74頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 以上のとおり、原告に生じた諸症状のうち、アレルギー性皮膚炎と考えられる症状は、A(殺虫剤)の煙に触れたことによって生じたものと推認されるけれども、右アレルギー性皮膚炎に対する被告らの予見可能性(相当因果関係)についてはこれを認めるに足りる証拠はなく、却って、前記認定事実及び鑑定の結果によれば、原告に生じたアレルギー性皮膚炎の主たる原因が、原告において副腎皮質ホルモン外用剤を長期連用していたため、皮膚が菲薄化し、顔面の皮表に付着した物質が経皮吸収され易くなっていたことにあると推認される。そして昭和五四年ころには、まだ副腎皮質ホルモン外用剤の副作用についての情報が不足していたこと、原告がA(殺虫剤)の煙に触れたとはいえ、点火後五時間以上も経過していたのであるから、残存していて原告の顔に触れた煙は僅かのものであったと推認されること(仮に原告が当日午前八時一〇分過ぎてから二〇分余の間にA(殺虫剤)の煙に触れたのであるとしても、前記4の終りの部分に認定のとおりの状況では、ごく僅かの煙に触れたにとどまるものと推認される。)、A(殺虫剤)の発売量が二〇〇〇万本を超えるにもかかわらず薬害事例が全くないことから、A(殺虫剤)はさ程の有害物とはいえないことなどが認められ、これらの点を併せ検討すると、原告は、当時まだその副作用が充分認識されてなかった副腎皮質ホルモン外用剤を長期連用していたため、有害性の乏しいA(殺虫剤)の煙に僅かに触れただけでアレルギー症状を発症したというべきであるから、右症状は特別事情によるものであり、被告らには、これについて予見可能性がなかったものといわざるをえない。
 6 以上によれば、原告の被告らに対する不法行為及び被告会社に対する安全配慮義務違反に基づく各損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。