全 情 報

ID番号 04821
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 倉敷紡績事件
争点
事案概要  未成年者の退職願いが本人の父により提出されたもので、本人の意思によるものではなく、労基法五八条二項の要件を充たすものともいえないとして、右退職願いが無効とされた事例。
 就労請求権につき、業務の性質上賃金の支払いを受けるだけでは著しい精神的不安をこうむる場合、あるいは技能が低下するなどの特別の事情のないかぎり、就労を求める仮処分は認められないとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法58条2項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 就労請求権・就労妨害禁止
年少者(民事) / 未成年者の労働契約
退職 / 退職願 / 第三者による退職願
裁判年月日 1961年1月30日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 決定
事件番号 昭和36年 (ヨ) 5 
裁判結果 認容
出典 労働民例集12巻1号49頁
審級関係
評釈論文 熊倉武・労働経済旬報546号18頁/前田政宏・ジュリスト263号110頁
判決理由 〔退職-退職願-第三者による退職願〕
 とすれば退職願(疏乙第二号証)は申請人の意思に基きその承諾の下に作成されたものでないことは明白であるから、無効のものと言うべく、之に基き為された労働契約の解除も又無効であつて、申請人は被申請人の従業員たる地位を依然として有しているものと言うべきである。
〔年少者-未成年者の労働契約〕
 次に被申請人は申請人の親権者たる父Aが労働基準法第五八条第二項により申請人に不利である契約を解除したものであると主張するが、申請人の本件労働契約が本人に不利であるとの疏明がないばかりか、各疏明資料によれば安城工場中にはC専修学校なる一般教養向上の為の教育も行われる等、種々の社会教育も施され、その他申請人の思想傾向から被申請人安城工場で就労させることが本人の将来の為不利であるとの考えも到底採ることのできないものであるから、この主張は排斥を免れない。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-就労請求権・就労妨害禁止〕
 次に申請人の安城工場への就労請求については、もともと労働契約が労務の提供と賃銀の支払とその基本的な要素としているところ、労務の提供は労働者の義務であつて、之を使用者に対する権利として考えるべき性質のものではない。勿論業務の性質上賃銀の支払を受けるのみでは著るしき精神的不安、精神的苦痛を蒙るとか、或いは自己の有する技能が低下するという特別の状況が存在する場合は之を権利として請求し得る場合もあるであろうが、本件においては申請人が右のような特別の状況の存在することを主張も疏明もなしていないから、結局就労請求の部分については失当として却下を免れない。