全 情 報

ID番号 04845
事件名 解雇無効確認請求事件
いわゆる事件名 大葛産業事件
争点
事案概要  上司との口論を理由とする懲戒解雇につき、懲戒解雇に処するほどのものではないとして無効とされた事例。
 予告手当を支給して行なわれた懲戒解雇が無効である場合、これを予告解雇として有効とすることはできないとされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働基準法20条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇の普通解雇への転換・関係
裁判年月日 1961年12月11日
裁判所名 秋田地
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (ワ) 185 
裁判結果 認容
出典 労働民例集12巻6号1046頁/時報283号31頁/タイムズ125号81頁
審級関係
評釈論文 瀬元美知男・ジュリスト341号108頁/中村武・水野勝・法学新報69巻3号50頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 そこで本件についてこれを見るに、前記認定の原告の行為は、職場における人の和の尊重と上司に対する礼節という点において欠けるところがあつたことは充分認められるが、それは技能者特有の頑固さと自己の技能に対する過信の結果と認めるのが相当であり、それほど悪意があつたものとは思われない。従つて、仮にそれが前記懲戒規定の列挙する事由のいずれかに該当するとしても、他の軽度の懲戒方法を適用すれば足るのであつて、昭和二二年以来十有余年にわたつて勤続して来た原告を、労働者として最大の不利益且つ不名誉の処分たる懲戒解雇に処するほど、重大な事由があつたものとは、到底認められない。従つて、本件懲戒解雇は、就業規則の定める懲戒規定に違反するものといわざるを得ない。そして、就業規則は使用者が一方的に制定改廃できるものではあるが、一旦制定された以上、それが存在する間は、労働者のみならず使用者をも拘束するものと解すべきである。それは法秩序の根底をなす信義則の要求するところであつて、就業規則の法的性質について、いかなる見解を取るとしてもその結論に影響しない。本件懲戒解雇は右の理由により無効である。なお、仮に、懲戒権を、就業規則の規定をまつまでもなく、使用者の有する固有の権利と認める見解を採るとしても使用者は正当な事由なくして、被傭者に対して、通常の解雇以上の不利益を与える権利を有しないことは明らかであるから、懲戒解雇の前提要件としては、前述のような重大な職務違反又は不信行為の存在が要求されるのであつて、結論においては右に述べたところと少しも変らない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒解雇の普通解雇への転換・関係〕
 もつとも、被告会社代表者本人尋問の結果によれば、被告会社は原告に対して一ケ月分の予告手当を支給しているので、懲戒解雇としては無効でも予告解雇として有効ではないかという疑問も生ずる。しかし、前記のとおり、懲戒解雇は、秩序罰として労働者を企業外に追放し、解雇後にいたるまでこれに不名誉と不利益を課する非常措置であるから、ひとしく解雇権の発動ではあつても、通常の解雇たる予告解雇とはその性質を異にするものである。従つて、懲戒解雇と予告解雇を併合して同一処分により行うことは、労使関係の信義則上許されないものと解すべきである。(もしそうでないとすると、懲戒事由がないときでも、使用者は、予告手当を支給し又は一ケ月の予告期間を置いて懲戒解雇をすれば、解雇の効力を維持できることになる。それは、「懲戒解雇という名の予告解雇」を認め労働者に不当な不利益と不名誉を与える結果になるから、信義則上到底容認できない。)
 以上の理由により、本件懲戒解雇は無効であるから、原告と被告間の雇傭関係は存続しているところ、被告はこれを争つているからその確認を求める原告の本訴請求は正当である。