全 情 報

ID番号 04874
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 炭研精工事件
争点
事案概要  懲戒解雇事由である「無断欠勤」には無届欠勤も含まれるが、弁護士を通じてした欠勤届は右事由にあたらないとされた事例。
 大学中退の学歴および刑事裁判の公判係属中であることを秘匿していたことが経歴詐称にあたり懲戒解雇事由になるとされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 経歴詐称
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
裁判年月日 1990年2月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ワ) 4384 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例558号14頁/労経速報1392号7頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
 しかるところ、原告の欠勤の理由は、逮捕、勾留による身柄拘束のためであって、その被疑事実は、公務執行妨害、具体的には、原告本人尋問の結果及び(証拠略)によると、原告が参加したデモの参加者が警備に当たっていた警察官に空きびん、石等を投げたというものであることが認められる。しかし、原告の関与の有無を明らかにする証拠はなく(原告本人尋問の結果及び(証拠略)中には原告は何ら関与していない旨の部分がある。)、前1(五)認定のとおり、結果的にも原告は不起訴となっているのであるから、結局、原告が真に右の犯罪を犯したことによって逮捕、勾留されたと認めるには足りない。そうすると、結局、原告の欠勤は、いまだ前述の社会通念上恣意的なものと認められる欠勤とはいえないから、これについて届出がされた場合には、被告会社が、これを不承認としたからといって懲戒解雇事由としての無断欠勤となるものではない。そして、右1(五)認定のとおり、昭和六一年三月二〇日、有吉弁護士が原告の依頼を受けて作成した「休暇届」が被告会社に提出されているところ、この届には欠勤予定日数が明らかにされていないから、右認定の就業規則によって提出を求められている欠勤届の要件を満たしていないかのようであるが、右「休暇届」の理由の記載に照らすと起訴前の勾留の最長期限を一応の終期とするものと解することができること、右終期がいつであるかは有吉弁護士に照会することによって容易に知ることができたこと、欠勤の予定日数についてはその性質上不確定な場合が稀ではなく、右程度の届出でも当面の勤務計画に支障はないと考えられること等に照らすと、右「休暇届」の提出は有効な欠勤の届出と認めることができる。
 (4) したがって、原告が、三月一七日から同月二七日までの休日を除く九日間勤務しなかったことは、就業規則三八条一号の「正当な理由なく連続七日間以上無断欠勤したとき」に当たるとは認められず、また、これが、就業規則三八条一三号の「その他前各号に準ずる不都合な行為があったとき」に当たると解する根拠も見当たらない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-経歴詐称〕
 (3) ところで、雇用契約は、継続的な契約関係であって、それは労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置くものということができるから、使用者が、雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者の経歴等、その労働力の評価と関係のある事項について必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負っているというべきである。就業規則三八条四号もこれを前提とするものと解される。
 そして、最終学歴は、右(1)の事情のもとでは、原告の労働力の評価と関係する事項であることは明らかであり、原告は、これについて真実を申告すべき義務を有していたということができる。
 また、雇用しようとする労働者が刑事裁判の公判係属中であって、保釈中であるという場合には、保釈が取り消され、あるいは実刑判決を受けて収監されるなどのため勤務することができなくなる蓋然性の有無、公判に出頭することによって欠勤等の影響が生ずるか否か等を判断することは、当該労働者の労働力を評価し、雇用するか否かを決する上で重要な要素となることは明らかである。このことは、当該労働者がその事件について無罪の推定を受けていることとは関わりのないことである。
 そうすると、原告は、被告会社の採用面接を受けた当時、現に保釈中であり、二件の刑事裁判の公判継続中であったのであるから、そのような経歴にいくらかでも関連することについて被告会社から問われた場合にはこれに真実を申告すべき義務があったということができる。そして、被告会社が、採用面接に当たって申告を求めた「賞罰」とは、公的なものに限らず、原告を雇用するか否かを決するために必要かつ合理的なもの、例えば、前科に限らず右のような経歴も含む趣旨であることは容易に推測できることであって、また、原告もこのことを知り得たと解される(なお、証人Aの証言中には「賞罰」には、公判中であることは含まれない旨の部分があるが、一般的な場合についての同人の意見にすぎず、右認定の妨げとなるものではない。)。
 したがって、原告が、大学中退の学歴及び公判係属中であることを秘匿して、被告会社に雇用されたことは、就業規則三八条四号の「……経歴をいつわり……雇入れられたとき」に当たるというべきである。