全 情 報

ID番号 04878
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 大日本印刷事件
争点
事案概要  勤務不良、文書無断頒布等を理由に懲戒解雇された者が、右懲戒解雇を不当として地位保全の仮処分を申請した事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
裁判年月日 1950年3月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和24年 (ヨ) 3535 
裁判結果 一部認容・却下
出典 労働民例集1巻1号94頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
 懲戒処分中懲戒解雇は従業員から絶対に反省の機会を奪う最も重い処分であり、本件就業規則第百二十二条の規定もその立言の趣旨からみて懲戒解雇は相当程度の高い不都合の行為のあつた者に対する処分であることがうかがわれる。従つて懲戒解雇が適当であるかどうかは違反者をそれ以下の軽い処分に付する余地がないかどうか換言すればそうした措置により将来を戒めてもとうてい改悛の見込がないかどうかの観点から判定すべきものと考える。
 一、申請人等は職場離脱が多く、その出勤状態も不良であつたことは前認定の通りであり、右職場離脱は主として申請人等組合活動に熱心なる結果に基因するものと一応認められるが、会社の了解がない限り組合事務専従者以外の組合員の就業時間中における組合活動は原則として許されないものと解せられるから申請人等の右職場離脱は不当であるといわなければならない。しかし就業規則第百二十二条第十号にいわゆる「改悛の見込なき者」でしかも同条本文の「情状重きもの」として即時解雇に値するものとは速断しがたい。なんとなれば申請人等が上長から再三注意を受けたことは前認定の通りであるが、会社は本件解雇に至るまで申請人等のこの種行為に対して就業規則を適用し、譴責、減給、出勤停止等の処分をとつて警告した事実は全然なく、また昭和二十三年十二月二十六日の協約締結以来昭和二十四年十月二十一日改正労働組合法に基く組合規約の改正時に至るまで就業時間中の組合活動については事実上組合に対しても、また個々の従業員に対しても明確な態度を示したことがなく、どちらかといえば組合と会社との力関係を考慮し、成り行きにまかせていた観があるのであつて、むしろ会社が従来そうした明確な態度をとらなかつたことがかえつて一般に職場秩序の弛緩をもたらし、就業時間中の組合活動を会社が默認しているかのような感を与えたものと推測せられるのであつて、申請人等の勤務状態が改まらなかつたことについては、会社側のこれに対する措置に欠けるところがあつたことにその一半の責任があるといいうるからである。従つて申請人等の勤務不良の事実は就業規則第百二十二条によつて即時解雇しなければならない程改悛の見込なく情状重しと断ずることは相当とは認められない。
 二、申請人Aの文書無断貼付の事実は就業規則第百二十二条第十一号、第三十一条第五号に該当し昭和二十四年六月二十八日の「B」の記事は同第百二十二条第三号に該当するが、いずれも情状軽微というべく昭和二十三年六月二十四日の蒸溜室の火災については既に一年前に処分済であつて同種行為の反覆はないのであるから、再度これを懲戒事由として取上げることは妥当でない。
 三、申請人Cの勤務不良の事由中昭和二十四年九月初旬頃、同月十二日及び同年十月三日の各集団的交渉の事実は一見情状重きが如き観がないわけではないが、右九月初旬頃の件は会社の賃金遅配に端を発したことであり、同月十二日の件は課長や係長の態度にやや親切を欠いたこともその一因と推測せられ、十月三日の件は従来賃金の支払が二回になつていたのが突然三回払になる旨の通知を受けたことに基因するものであつて、同申請人が職場委員の立場上賃金遅配にあえいでいた労働者のために立つた心情を汲めばいずれも情状酌量の余地あるものというべきである。なお同年十一月十五日の上長命令違反の点は就業規則第百二十二条第一号に該当するとはいいえない。
 四、申請人Dの昭和二十四年十月四日の上長命令違反並びに文書無断貼付の事実は就業規則第百二十二条第一号、第十一号、第三十一条第五号に該当するが、当時はたまたま組合より会社に対し八千円の突破資金要求中のことであり、本件ポスターは右突破資金に関するものであつて他の職場においても同様文書の無断貼付の事実があつたことがうかがわれるし、またこの種違反行為に対する会社側の従来の取締態度が緩慢であつたことにもその一因があると推察されるから、情状重しと断定することはいささか苛酷といわなければならない。
 以上を要するに、申請人等について認められる懲戒事由該当事実は、一応職場の秩序維持のうえから穏当を欠くものとのそしりを免れないが、会社がその都度適時適切な措置をとらず、譴責・減給・出勤停止等の懲戒処分を全然問題にしないで今一挙に懲戒解雇に処するということは苛酷であり、就業規則の適用上妥当な措置とは認めがたい。従つて会社が申請人等に対してなした本件懲戒解雇は就業規則の正当な適用を欠くものとして無効というべきである。