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ID番号 04906
事件名 従業員地位不存在確認請求事件/従業員地位確認等請求反訴事件
いわゆる事件名 ブックローン事件
争点
事案概要  神戸本社業務部業務課督促係から同部名古屋業務への配転命令を拒否して懲戒解雇された者がその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
労働組合法7条1号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
裁判年月日 1990年5月25日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (ワ) 424 
昭和63年 (ワ) 875 
裁判結果 本訴認容・反訴棄却(控訴)
出典 タイムズ752号171頁/労働判例583号40頁/労経速報1396号24頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 原告が所轄の公共職業安定所を通じA高等学校に高卒用求人票を提示したこと、被告が入社後一三年間神戸に勤務していることは当事者間に争いがなく、(証拠略)被告本人尋問の結果並びに右当事者間に争いのない事実によれば、被告は昭和四九年四月高卒定期採用の一人として原告に入社したが、それに先立ち原告は昭和四八年六月二五日頃、所轄の公共職業安定所を通じて各高等学校に、原告への就職を希望する生徒の推薦を依頼したところ、被告はA高等学校より推薦され、採用試験の結果原告に入社したこと、右安定所に対する求人票には作業内容として総務事務、経理事務、督促事務並びに電算室が、作業所として当時の本社ビルであった兵庫ビルが表示されていたこと、右求人票は公共職業安定所の所定のもので、それに記載しているのは原告の概括的な労働条件であり、求人票の作業所の記載はさしあたっての就業場所を示すにすぎず、具体的な労働条件は労働契約なかんずく就業規則や企業規定によって定まること、被告は右求人票を基に学校が作成した会社一覧表を見て応募したが、右一覧表には勤務地として神戸と記載されていたこと、右当時原告の本社は現在と同様神戸であったが、北海道から九州まで各所に支社や営業所があり、勤務地を限定して従業員を採用し、終生同一の場所で勤務させることは会社の運営上困難で、今まで勤務地を限定して従業員を採用したことは一度もないこと、原告の就業規則第八条には、「会社は業務の必要により社員に異動(転勤、配置転換)を命じることがある。この場合正当な理由なくこれを拒否してはならない」旨規定されていること、原告においては入社後のオリエンテーションで右就業規則及び会社の支社や営業所についての説明をしていること、被告は採用試験の際もオリエンテーションの際にも勤務地に関し何等の申し出もしていないこと、原告においては年間平均十数名の従業員が転居を伴う異動をしており、前記就業規則にはそのための旅費の支給、転居の費用、住宅費補助についての規定が存すること、被告と同時期の高卒定期採用者であるB(旧姓C)も東京、札幌、神戸と転勤を経験していること、被告は入社後三宮所在の電算室に、昭和五五年四月からは本社ビル商品課に配属され合計一三年間神戸で勤務しているが、被告は自己が他に異動することを予想して、会社に提出した自己申告書に異動についての希望を記載していること、以上の事実が認められ、右認定に反する(証拠略)並びに被告本人尋問の結果は措信せず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
 右認定の被告採用時の状況、就業規則の記載内容、原告における異動の状況等諸般の事実を併せ考えると、求人票に記載された作業所は求人の際のさしあたっての就業場所を示したにすぎず、被告と原告との間の労働契約には勤務地限定の約束は存在せず、前記就業規則により勤務地については原告の一方的変更に従う旨の包括的合意がなされているというべきである。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 右認定の事実によれば、原告には名古屋業務において退職したDの後任を補充する業務上の必要性があり、その後任に督促業務を現在行っており転勤経験のない被告を選任したことは合理的理由があったというべきである。
 尤も被告は、本件配転に応じれば妻との別居か妻の退職かを迫られる旨主張するが、後記認定のとおり、原告は本件配転の内示の際同年六月末日退職予定のEの後任に被告の妻をあててもいい旨被告に伝えているのであって、被告の妻が神戸本社に勤務していることを以て、被告を本件配転の対象者としたことに合理的理由がないといえない。