全 情 報

ID番号 04915
事件名 地位保全事件/賃金仮払仮処分申請事件
いわゆる事件名 博多第一交通事件
争点
事案概要  会社専務につき「前歴はヤクザ」「前科一八犯」など虚偽事実を記載したビラを会社外で配布したことを理由とする組合委員長に対する懲戒解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
裁判年月日 1990年6月8日
裁判所名 福岡地
裁判形式 決定
事件番号 平成2年 (ヨ) 107 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例564号38頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
 2 右に一応認定した事実によれば、本件ビラの内容に不適切もしくは不穏当な箇所が存し、その程度はともかく、このようなビラの配布によって、A等の名誉感情が害されたり、債務者の社会的イメージが低下させられて債務者の営業活動に何らかの支障が生じた可能性を全く否定してしまうことはできず、このようなビラの配布行為が正常な組合活動の範囲を多少なりとも逸脱しているのではないかとの疑念もないわけではない。
 しかしながら、右に認定の諸事実を総合的に勘案して本件紛争の全経緯を観てみると、債務者の経営陣が第一交通グループに代わって以来の労使紛争により、債権者の所属する組合がほとんど壊滅的状態に陥っていることは明らかであり、債務者と組合間の一連の労使紛争は、主に債務者側の組合員に対する強引かつ執拗ないやがらせや脱退工作に端を発するものであること、また、本件で問題となっている平成二年二月のビラの配布は、Aを中心とする債務者の幹部による組合の切り崩しに対して組合の組織を防衛することを目的として行なわれたものであって、その動機において酌むべきものであること、ビラに掲載された内容は、基本的には、BやAなど会社幹部らの組合員に対するそれまでの言動や、会社側と組合側との衝突の過程で起きた具体的な事件などを前提として記載されたものであって、組合や組合の上部団体である自交総連にとってはあながち根拠のないものではなかったこと、そして、本件ビラの原稿は、自交総連の書記長Cが起案したもので、ビラの配布についても自交総連が中心的役割を果たしていて、必ずしも債権者が指導的役割を果していた訳ではないこと、しかも、本件ビラの配布による債務者の具体的な不利益の内容や程度は必ずしも明らかではないこと等の事実に鑑みれば、本件ビラの配布を理由としてなされた本件解雇は、使用者に許された懲戒権行使の範囲を著しく逸脱したものというべきであり、解雇権の濫用と判断されるから、債務者が債権者に対してした本件解雇は無効というべきである。