全 情 報

ID番号 04968
事件名 労災保険審査決定取消請求事件
いわゆる事件名 北海道労災保険審査会・住友石炭鉱業従業員事件
争点
事案概要  労働者が旧鉱務所の解体作業中に梁から落ちて、その後一年七カ月後に死亡した事故につき、その遺族が右死亡を業務上の死亡にあたるとして労災保険金を請求した事例。
参照法条 労働者災害補償保険法12条1項
労働基準法79条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 1954年12月21日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 昭和29年 (行) 13 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集5巻6号803頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 Aは昭和二十三年十二月十三日前記会社B鉱々務所解体作業場において解体工事のため屋根に上り挺にて屋根板をはがしている時、氷のため足を滑して十尺位の高さより墜落し、解体材料に右胸部を打撲し、右胸部打撲症の傷害を受けて直ちに入院し、七日間で退院した後稼動するに至つたが、Aはこれより先き、昭和十八年頃よりいささか精神状態に異常を来たし、昭和二十二年頃には忘却性が甚しくなり、常に睡眠不足を訴え、昭和二十三年九月頃には坑内作業に不適当と認められて坑外営繕係に配置転換となり、同年十月頃は作業中放歌する等常人には想像されないような奇行を演ずるようになり、昭和二十四年十二月三十日国立C大学大学医学部附属病院精神神経科に入院し、医師Dによつて、進行麻痺すなわち俗にいう脳梅毒で、典型的進行麻痺所見を呈しており、感染は十年以上以前、発病は昭和二十三年五月頃と推定される旨の診断を受け、その後同二十五年二月二十六日同病院で死亡し、同病院で解剖の結果、死因は梅毒に特有の蜘蛛膜下出血であることが判明したもので、なお、一般に進行麻痺は外傷によつて誘発進行されることが極めて稀であることがそれぞれ認められる。以上の認定事実によれば、Aは第一および第二の負傷を受けたけれどもそれぞれ全治して就労しており、右外傷とAの死亡との間には一年数箇月の時日が存在し、Aは右外傷を受ける以前より既に進行麻痺的所見を呈していたと推認され、かつ、進行麻痺は通常外傷によつて誘発亢進されることがないのであるから、本件第一および第二の負傷はいずれもAの死因とは因果関係がないと認めるのが相当である。