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ID番号 04975
事件名 労災補償認定等取消請求事件
いわゆる事件名 石川炭砿事件
争点
事案概要  炭砿会社で就業中の労働者の出水事故による死亡事故(業務上の死亡)につき会社に重大な過失があったとして給付制限の処分がなされたのに対して右処分の取消が争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法19条
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 保険料の怠納、労働者側の重過失等による給付制限
労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 審査請求との関係、国家賠償法
裁判年月日 1955年12月16日
裁判所名 福島地
裁判形式 判決
事件番号 昭和27年 (行) 22 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集6巻6号1094頁
審級関係 上告審/04992/三小/昭35.11. 1/昭和33年(オ)606号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-審査請求との関係、国家賠償法〕
 先ず被告署長および被告審査官に対する請求について判断するに、被告署長の決定は、被告審査会の決定によつて取消されたのであり、また被告審査会の決定は、被告審査官の決定を取消すと宣言はしていないが、被告審査官の認容した原決定が右のとおり取消されたのであるから、被告審査官の決定もおのずから取消があつたものとなるわけである。そして行政訴訟の結果、被告審査会の決定が取消され、被告審査会が改めて決定すべきものとするも、被告審査会は、後に述べるように、不告不理の原則に支配されて、原決定を原告の不利益に変更することはできないのであるから、被告審査会を相手方として出訴した以上、被告審査会によつて既にその処分の取消された被告署長および被告審査官をあわせて相手方として、それぞれの処分の取消を求めるのは、訴の利益がないわけであるから、被告署長および被告審査官に対する本訴請求は、この点においてこれを棄却すべきものである。
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-保険料の怠納、労働者側の重過失等による給付制限〕
 更に原告は、保険法第一九条の制限事由がある場合、給付の支給制限をするかどうか、制限の程度をどうするのかは、もつぱら労働基準監督署長の自由裁量に属する事項であつて、労働者災害補償保険審査会は、制限事由の有無の点についてのみ審査決定の権限があるだけで、支給制限の額を変更する権限はないと主張するが、右法条は、「政府は、保険給付の全部又は一部を支給しないことができる。」と規定し、保険法施行規則第一条第二項は保険給付などに関する事務を署長の管掌と定め、保険法第三十五条は審査官、審査会に遂次審査を請求することができると定めているのであつて、署長、審査官、審査会がともに政府の機関である以上、特別の明文のない場合において、原処分庁である署長のみがひとり制限または制限の程度について自由裁量権を有し、審査官、審査会は、これを有しないと解すべき根拠がない。若し原告主張のとおりに解すべきものとすれば、審査会(審査官についても同様である。)が制限事由があると認める限り、常に審査の請求を棄却しなければならないのであるから、加入者または労働者は、制限の点、制限の程度の点については全然不服の申立をすることができないと同じ結果になるわけであるが、保険法第三五条は、単に「決定の異議(不服)のある者」といつてるだけであつて、異議の理由を制限事由の有無の点のみに限定してはいないのであるから、原告の右見解は採用できない。