全 情 報

ID番号 04980
事件名 労災保険審査決定取消請求事件
いわゆる事件名 麻生鉱業火夫事件
争点
事案概要  炭坑でボイラーの火夫としてボイラーの投炭業務に従事していた者の腰痛につき業務上か否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法12条1項(旧)
労働基準法75条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 災害性の疾病
裁判年月日 1957年5月28日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和30年 (行) 1 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集8巻3号353頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-災害性の疾病〕
 原告の勤務していた赤坂炭坑に於ける炉の状況は直経七尺位のボイラー二基が据えられ、焚口は縦横各一尺位のものが地上三尺位の高さの所に各基に二ケ所づつあつて投炭用の石炭は焚口から三米位のところに置かれ、作業はスコップ一杯一貫目位の石炭を二ケの焚口に合計十二杯位を投入するのを一回として、一時間六回乃至八回(季節により増減あり)投炭するのと、炉中の石炭を鉄棒で撹拌したり炉中にできる糊着状態の灰の塊を割つて焚口から取除いたりするのが主で、それらの作業に二名位の人員が一時間乃至二時間置きに交替従事していたもので比較的腰を多く使う作業であり、且つ昭和二十六年頃からは従来の自然通風による炉の型式(ランカシヤ型)から煽風機による通風の型式(三橋式)に切り替えられ、その当初低品位炭を使用した関係もあつて作業は全般的に従前に比較しやや労働過重になつたこと、それでもともとこの作業は比較的多く腰を使うため腰痛が絶無とは言えないにしてもそれは短時日のうちによくなる程度のもので特別腰部に無理をきたして仕事が出来なくなるようなことや、多年この作業に従事していることが原因で腰痛を生じ再起不能におちいるようなことはないことが認められ成立に争のない乙第一号証の一、二、四の各記載中以上の認定に反して急激に労働加重になつた趣旨の記載部分はいづれも原告の主張を内容とするもので信用することが出来ず他に右認定を左右するに足る証拠は存しない。従つて原告が腰部を捻挫したのが火夫作業により腰部に無理がきていたために生じたものとみるべき一般的状況もないのであつてかえつて成立に争のない乙第一号証の三、及びその方式記載内容から業務の通常の過程に於いて真正に作成されたものと認める乙第三号証の一乃至五に証人Aの証言及び原告本人尋問の結果を綜合すると、原告は昭和十四、五年頃性病に罹つたこともあり日頃病気が多く、感冒、慢性胃炎、大腸炎等で度々治療を受けているが、本件腰痛を訴える以前にも昭和二十六年四月二十七日より五月二日までの間腰痛、同年五月二十三日右肩胛部に疼痛、同年十二月十三日より昭和二十七年一月三十一日までの間全身癜風、同年六月二十日より九月二十四日までの間自宅の建設の準備作業をなしていて生じた第四腰椎棘状突起痛の各既往症を有し、特に最後の第四腰椎棘状突起痛の当時には四、五年前から腰が痛くて特に重労働をすると痛むとの原告の訴もあつて、診断に当つたB医師はその原因を確めるため採血検査をなしたところ弱陽性反応が現われ一応黴毒性疾患の疑あるものとして同年六月二十七日から九月二十四日まで駆黴療法がつづけられた結果採血検査の上では一応陰性になつたこと、しかし原告は現在も腰部が痛み無理な動作をすれば寝込むことがある状況にあることをみとめることができるのであつて原告自身には身体上の故障が多く、勤務以外の作業によつても腰痛を訴えて黴毒性棘状突起痛の診断を受けており、駆黴療法の結果一応陰性になつたとは言うものの病気の性質から腰痛の原因となる蓋然性のあることが推認される状態にあつたから本件全立証をもつてしても原告の腰部捻挫と火夫としての作業との間に因果関係のあることを認定することができないのであつて結局原告の本件疾病は業務上のものと認めることができない。