全 情 報

ID番号 04995
事件名 行政処分取消請求事件
いわゆる事件名 淀川労基署長事件
争点
事案概要  雑役夫として就労していた労働者が肺結核にかかっていることを知りながら仕事に従事させ心臓衰弱により死亡したケースで、右死亡が業務上の疾病にあたるとして労災保険の給付が請求された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法12条1項(旧)
労働基準法75条
労働基準法施行規則35条38号(旧)
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1961年4月25日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和34年 (行) 27 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集12巻2号209頁/訟務月報7巻6号1290頁
審級関係
評釈論文 瀬元美知男・ジュリスト337号139頁
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 死亡労働者が心臓肥大、動脈硬化、弁膜硬化等の心臓疾患及び左右両肺の肺結核に罹患していたところ、昭和三〇年四月二五日午前八時五〇分頃会社事務室の片付け作業に従事中突然事務室裏口附近で転倒し、間もなく死亡したこと、死亡労働者の死亡は心臓衰弱死であつて、前示心臓疾患が主たる直接の原因となり、同時に前示左右両肺の肺結核が死因である心臓衰弱を来す一要因となつたものであり、右のごとき健康状態にある死亡労働者が肉体労働に従事することは極めて危険であつて、死亡当時の労作が急性心臓衰弱を惹起する一原因となつたものであることは、既に認定したところにより明らかである。従つて、前示のごとき疾病の症状にある死亡労働者を死亡当時稼働せしめたことが、使用者の義務違反ないし労務管理上の欠陥に基くものであるならば、死亡労働者の死亡は、かかる使用者の義務違反ないしは労務管理上の欠陥の結果生じた危険状態が原因となつて生じたものというべきであるから、前示疾病が業務上の事由によるものであるかどうかに関係なく、業務上の死亡とする理由があるわけである。そこで、雇主たる会社が死亡労働者をして死亡当時雑役夫としての労働に従事せしめたことが、その義務違反ないしは労務管理上の欠陥に基くものであるかどうかを検討するに前掲乙第五号証と証人Aの証言によれば、死亡労働者が死亡直前まで前示左右両肺の肺結核の治療をうけていた医師Aに対して、肺結核のほか感冒の治療をうけていたことがあつても、前示心臓疾患ないしはこれに関連する治療をうけた形跡がなく、証人B、同C、同D、同E、同F、同Gの各証言と原告本人尋問の結果を総合しても、死亡労働者がその生前中、会社の上司、同僚、妻に対して特に前示心臓疾患による苦痛を訴えたとも認められず、さらに、証人Hの証言によれば、死亡労働者の前示心臓疾患については、全く自覚症状を欠く場合もありうることが認められるから、死亡労働者が前示心臓疾患について自覚症状なく経過し、死亡後屍体解剖の結果初めて前示心臓疾患に罹患していることが発見せられたものと考えられ、雇主たる会社としては、死亡労働者が死亡するに至るまで前示心臓疾患に罹患していることを全く関知していなかつたものと推認できるところ、既に認定したところによれば、死亡労働者の前示左右両肺の肺結核は、昭和二八年八月集団検診の結果発見せられ、同年一〇月一〇日より昭和三〇年四月二二日まで医師Aから治療をうけたが、初診当時を最悪として一時病勢やや悪化したとはいえ、全体としては順調な経過をたどり、死亡直前には特に悪化の徴候は見られず、殊に昭和二九年一一月一日以降は同医師から就労のまま医療可能の診断をうけていたことが認められるのであるから、雇主たる会社が死亡労働者をしてその死亡当時はもとより、昭和二九年一一月一日以降についても、軽労働の部類に属すると認められる雑役夫としての作業に従事せしめたからといつて、敢て異とするにたりないのであつて、死亡労働者をその死亡当時就労せしめたことについて、使用者としての義務違反ないしは労務管理上の欠陥があつたとすることはできない。従つて、死亡労働者の心臓衰弱死が使用者の義務違反ないしは労務管理上の欠陥の結果生じた危険状態が原因となつて生じたものということはできない。もつとも、既に認定したところによれば、医師Aは、死亡労働者の肺結核治療のため、昭和二八年一〇月一〇日より昭和二九年一〇月三一日までは労務不能の診断をしたにもかかわらず、雇主たる会社が昭和二八年一〇月一〇日より一〇日間ないし一ケ月間死亡労働者を休業せしめたのみで、逐次従来の作業に従事せしめたことが認められ、この点において、雇主たる会社に使用者としての義務違反ないしは労務管理上の欠陥があつたとしなければならないが、労務不能として休業すべきときに稼動せしめた最終のときから死亡労働者の死亡との間には一年数ケ月の時日が存在しており、かつ、死亡労働者の前示心臓疾患及び前示左右両肺の肺結核がその生前中の業務に起因する労働によつて増悪し、ひいては心臓衰弱死を惹起したものでないことは、既に認定したところによつて、明らかであるから、死亡労働者の死因である心臓衰弱との間には相当因果関係がないと認めるのが相当である。