全 情 報

ID番号 05011
事件名 損害賠償代位請求事件
いわゆる事件名 南都交通事件
争点
事案概要  第三者災害に関連して国が加害者に対して求償権を行使したケースで、自動車事故による負傷者の損害が示談契約により放棄されたかどうかが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法20条1項
体系項目 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 国の求償権、示談との関係
裁判年月日 1964年3月30日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和36年 (ワ) 4588 
裁判結果 認容(控訴)
出典 訟務月報11巻1号24頁
審級関係 控訴審/大阪高/   .  ./昭和39年(ネ)453号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-国の求償権、示談との関係〕
 昭和三四年五月二七日訴外Aが被告会社と示談をなし、自動車損害賠償責任保険金一〇万円のほか現金五万円を被告会社から受領したことについては当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第五、六号証、証人B(第二回)証人Cの各証言によれば右示談は訴外Aと被告会社事故係Bの間でなされたものであつて、その内容は被告会社は訴外Aの本件事故による入院治療費及びこれに付帯する一切の費用は被告会社において負担し他に訴外Aに見舞金として五万円を支払う、治療費及びこれに付帯する一切の費用は自動車損害賠償責任保険金をこれに充てるがこれで不足する部分については訴外Aにおいて労災保険から給付を受けること、被告会社において労災保険法による第三者行為支払いの責に当るものとする条件で円満示談解決するというものであること、右示談の成立の前提となる交渉は主として訴外Aの代理人である訴外D株式会社渉外課長Eと被告会社事故係Bの間でなされたものであること、右交渉の過程において被告会社事故係Bは訴外Aが労災保険金を受領することを認めていたこと、示談契約の際被告会社が労災保険法による第三者行為の支払いの責を負うとの条項が加えられたのは、訴外Aの代理人である前記Eが右Bに対しAが労災保険の給付を受けられなくなるとかわいそうだから右の条項を入れて欲しいと申入れ、右Bにおいてもこれを了承してこの条項が加えられたものであること、もし訴外Aが労災保険金の給付が受けられないのであれば被告会社は訴外Aに少くとも三〇万円程度は支払つたと思われること被告会社においても必ずしも労災保険法による第三者行為の支払いの義務を否定しているわけではなく、ただ本件事故については双方に過失があるから国が補償した全額について求償されるのは苛酷であると考えているものであること、を各認めることができ他に右認定に反する証拠はない。そして右認定の事実からすれば、訴外Aが右示談により自動車損害賠償責任保険金一〇万円と見舞金五万円の支払いを受け爾後被告会社に対する一切の損害賠償請求権を放棄したものとは認め難く、むしろ訴外Aは労災保険によつて給付を受け得べき金額の範囲で被告会社に対する損害賠償請求権を留保し、被告会社に対するその余の損害賠償請求権のみを放棄したものと解するのが相当である。