全 情 報

ID番号 05012
事件名 遺族補償費等処分取消請求事件
いわゆる事件名 中野労基署長事件
争点
事案概要  材木の運搬に従事するトラックの運転手が助手と交替してトラックの荷台に上乗りしていた際に助手の運転の過誤により転落し車に轢かれて死亡した事故につき業務上か否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法12条1項(旧)
労働基準法79条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務遂行性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務中、業務の概念
裁判年月日 1964年10月6日
裁判所名 長野地
裁判形式 判決
事件番号 昭和37年 (行) 3 
裁判結果 認容
出典 労働民例集15巻5号1098頁/時報392号43頁/訟務月報10巻11号1582頁
審級関係
評釈論文 保原喜志夫・ジュリスト346号99頁
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務遂行性〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 労働者災害補償保険法の保険する遺族補償費および葬祭料は同法第一二条第一項第四・五号、第二項の規定により、労働基準法第七九、八〇条に定める災害補償の事由すなわち労働者が業務上死亡したことによるものであることを要するところ、右にいう「業務上」とは、労働基準法が労働者の災害補償責任を個々の使用者に負担させている法のたてまえからすれば、その災害が労働者の業務遂行中に生じたものでかつその業務と災害との間に相当因果関係が存することを要するものと解するのを相当とする。そして、右にいう業務遂行性とは労働基準法が使用者の右災害補償責任のために使用者の過失を要件とせず、労働者の死亡に当つては労働者の重過失をも除外事由としていないことおよび右両法が労働者を業務上の災害から保護しようとしている目的に鑑れば、単に労働者が本来の職務に専念している場合のみならず、一般に労働者が労働契約に基き事業主の支配下にあることを意味するものと解することができる。従つて、これを具体的に考えれば、当該労働関係においてその労働者に予定された時間的場所的労務環境において本来の職務と密接な関係を有する行為を遂行している場合をも含むものと解すべく、更に本来の職務の一部を抛棄してもなお前記労務環境の下でその余の職務を遂行しているものと認められる限りなお業務遂行性を失わないものと解するのが相当である。そして、労働者の職務行為自体の認定も、契約および法令の規定に従つてこれを狭く厳格に解すべきではなく、その労働関係の実際からみて、その労働者が自己の与えられた労務環境の中で使用者の業務遂行のために日頃行つている現実の状態においてこれを把握すべきものである。〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務中、業務の概念〕
 本件において、被災者がいつもと同じようにトラックを運転して予定の順路をたどり、A地籍までこれを運転し、以後も荷台にあつて進行を続け、事故当事目的地に赴く途上にあつたことは前記認定の事実から明らかであるところ、同人に前例の如き業務抛棄とみるべき行動があつたか否かをみるに、同人の事故発生直前の行動については目撃者がなく、事後の調査によつても何らその状況を確認しえないことは前掲各証拠から明らかであるから、この間の事情からその瞬間における同人の行動を種々憶測して被災者の意思を推断することは許されない。そこで遡つてこれに先立つ被災者の一連の行動をみると、前記争いのない事実および前記認定の事実によれば被災者はA地籍において助手Bに、次いで飯場附近において助手Cにそれぞれトラックの運転を委ねたが、その後荷台にありながらも飯場において荷物の搬入を指揮し、次いで出発に際し対向車との交替を指揮し、引き続いて目的地の材木伐採場に向つていたものであり、また右のような限定された範図で助手が空車を運転することは当時日常の状態として行われていたことで、当日被災者も慣例的に助手と運転を交替したものと認められる。そして、被災者の交替の前後の行動からすれば、同人は自己の経験および助手の運転技術に照し目的地までの運転を同人に委ねても危険がないと判断していたものとみられ、現に助手が運転したことによつてその運転技術の未熟なことから事故が発生した事実は認められず本件の事故も助手が運転したことと直接関係があるとは認められない。また更に、被災者が荷積みおよび帰途の運転をも断念したとみるべき特段の事情は何ら認められない。これらの事実から考えるならば、本件事故発生当時同人は運転業務を離れながらも、なお前記の趣旨において本来の業務の一部を遂行中であつたということができそれさえも抛棄していたと認めることは困難である。
 そうであるなら、被災者の身体的状態その他運転を交替しなければならない緊急性等の事情を判断するまでもなく、被災者は本件事故当時前記説示の意味における業務遂行中であつたということができ、これに反する被告の主張は採るをえない。