全 情 報

ID番号 05060
事件名 休業補償不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 所沢労基署長(近畿車両)事件
争点
事案概要  アルミサッシ運搬業務に従事していた者の外傷性の頚部症候群につき業務上の事由に当るか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法76条
労働者災害補償保険法12条の8
労働者災害補償保険法14条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
裁判年月日 1982年9月1日
裁判所名 浦和地
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (行ウ) 14 
裁判結果 棄却
出典 タイムズ490号129頁/労働判例394号31頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 (一) 原告が差立職場の工長に就任後、業務量に変更がなく、その業務のうちFB枠運搬作業を除くその余の前示業務は、本件疾病と業務との因果関係の有無を判断するにつき重要な意味を持つものでないことは、既に説示した事実関係に徴して明らかであるから、先ず、FB枠運搬作業の態様等について、更に検討を加える。
 前に認定したところによれば、原告が昭和四〇年五月から同四四年三月まで従事したFB枠の運搬作業は、一回に平均九・八キログラムのFB枠二、三枚を垂直に挙げた右腕の手首を甲側に直角に曲げ掌を広げてその上に載せ、左手でこれを右方向に突張って保持するというのであって、長い枠の場合には爪先立ちすることもあるというのであるから、その作業姿勢は不自然なものであり、このような姿勢での長時間連続作業は、まさに原告の主張する重激な業務にあたるということができる。しかし、本件においては、右作業は夕方に集中した二時間前後であること、一日における平均運搬数量は、生産量の多かった同四一年四月から同四二年三月まで一九三枚、同四二年四月から同四三年三月まで二三三枚、同四三年四月から同四四年三月まで三〇三枚であること、その運搬距離も仕上完了置場からアルマイト加工のための指定置場までの約一五メートルと短距離であることも、既にみたとおりであるから、これが運搬作業に二時間前後を要したとしても、右のような不自然な姿勢による作業そのものは、三〇秒前後という短時間の断続的なものであることは見易い道理であるばかりでなく、FB枠運搬作業は、原告が引き摺って運搬したこともあり、また、短時間ではあるが差立職場の他の従業員の手伝いを受け、ときには二人でFB枠を持って運搬したこともあることは、既に認定したとおりである。
 そして、(証拠略)を総合すると、FB枠運搬作業によって背筋から腰にかけて吊れるような感じを受けたが、右は一過性の障害であって翌日に持ち越さない程度のものであったこと及び原告が差立職場からアルマイト職場に移った昭和四四年四月から同年九月までA、同月から同年一二月まではB、同年一二月から同四五年三月まではC、同年四月からFB枠の生産を打切った同年夏ころまではBが原告と同様のFB枠運搬作業に従事していたほか、アルマイト処理後コンベアから流れて来るFB枠を原告と同様の方法で運搬していた従業員もいたが原告のような症状の発症をみた者の存しない事実を認めることができ、原告が同四三年五月当時三六才であって、身長一六二センチメートル、体重五七キログラムで特に異常がなく、職場環境も劣悪と認め得ないことは、既に説示したとおりである。
 そうすると、原告が従事したFB枠の運搬作業は、不自然な姿勢で上肢を使用するものではあるが、さ程重激なものではなかったものといわざるを得ない。
 〔中略〕
 原告の主張する本件疾病発症の時期がFB枠運搬作業に従事した二年後であって、当時原告の業務量に変更がなく、身体的条件にも異常がなく、職場環境も劣悪でなかったこと、FB枠の運搬作業も重激なものではなく、原告と同様の作業に従事した他の従業員に原告と同様の発症をみた者が存しないこと及び原告の主張する発症が転倒して頭部を打って間もないことなどの前叙認定事実に(証拠略)を総合すると、頚肩腕症候群とFB枠運搬作業との間に直接の因果関係は存しないものと認めるのが相当である。