全 情 報

ID番号 05069
事件名 療養補償給付決定取消請求事件
いわゆる事件名 鶴見労基署長事件
争点
事案概要  業務上の負傷につき柔道整復師の施術を受けた労働者がその施術料につき労災保険の療養補償給付の請求をしたところその一部につき療養補償給付の支給する旨の処分がなされたことにつき右処分の取消を求めた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法13条1項
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 療養補償(給付)
裁判年月日 1983年11月29日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 昭和56年 (行ウ) 21 
裁判結果 棄却
出典 労働判例422号19頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-療養補償(給付)〕
 右事実によれば、柔道整復師の施術にかかる療養の費用の支給に関しては、神奈川労働基準局長は、労働省労働基準局長通達により示された算定基準に従って算定しているものであることは明らかであり、ただ、右算定方法の実施により柔道整復師が被保険者より支払を受くべき料金額と右基準額との間に差額を生じ紛争が起こるような事態を避けるためできる限り両者を一致させるのが望ましいとの配慮から、神奈川労働基準局長は、柔道整復師会をしてその所属する柔道整復師の施術料金を右基準額と同一額に統一させる目的で柔道整復師会と協定を結んでいるのであって、保険者より支給する療養の費用の額と柔道整復師会所属の柔道整復師が被保険者から支払を受くべき料金額が一致しているのは、右のような事情によるのであると認めることができる。したがって、原告らに対する本件療養の費用の支給額も、被告の右の基準(すなわち、昭和五三年三月一六日基発第一五四号労働省労働基準局長通達)に基づき算定されたものであって、被告と神奈川県柔道整復師会との協定料金によったものではないものといわなければならない。
 4 しかるところ原告らは、療養の費用の給付にあたっては保険者は被保険者が負担した費用の全額を支給すべきであって、任意に基準を設けてその一部のみを給付するのは法的根拠を欠くものであると主張する。
 そこで案ずるに、前叙のように労働災害に関する保険給付は労災保険法一三条により現物給付たる療養の給付が原則であって療養の費用の支給はその例外をなすものであるが、右例外措置である療養の費用の支給は、療養の給付をすることが困難な場合等の代替措置であることは同条三項によって明らかであるから、療養の費用の支給は、療養の給付(政府指定医療機関における療養)があったときと同一の療養効果をもたらす金員の支給でなければならず、またそれを以って足りるものであることは事理の当然であるといわねばならない。しかるところ、療養の給付については同条二項にその範囲を定めその指定の診療項目において特に「政府が必要と認めるものに限る。」との制約を設けているのであるが、これは労災保険給付を公平且つ迅速に行ううえでの合目的的制約であって十分に合理性の認められるものであるから、療養の費用の支給を定めた同条三項に特段の文言がなくても、療養の費用の支給の場合にも右の制約は当然に課せられるものと解しなければならない。
 なお原告らは、労災保険法施行規則一二条の二第二項をその主張の論拠にするが、施行規則の右規定は、療養の費用の支給額を算定するにあたりその参考資料として「療養に要した費用の額」につき診療担当者の証明を要求しているにすぎないものであって、右規定が実費相当額をもって療養の費用の支給額とすることを予定しているとみることはできず、そのことは、国民健康保険法施行規則二七条二項、健康保険法施行規則五三条二項に同様の規定があることからみても明らかである。
 しからば政府は、労災保険法一三条により療養の費用の支給に関し、その支給すべき範囲及び額について決定する権限を与えられているものといわざるを得ない。
 政府には療養の費用の支給額を決定できる権限はないとの原告らの主張は採用することができない。
 5 而して前記3において認定したとおり、柔道整復師の施術による療養の費用の支給額は、労働省労働基準局長通達に従い定められ、本件原告らに対する支給については昭和五三年三月一六日基発第一五四号労働省労働基準局長通達によっているのであるが、右労働基準局長通達は、いずれも健康保険給付に関する厚生省保険局長通知に準拠しているところ、(証拠略)によると、右厚生省保険局長通知の改定については医師会、柔道整復師会等から資料の提出を求め、意見、要望等を聞き、実態調査をするなどして決められていることが認められるのであって、特に右のようにして決められた算定基準を不当と認むべき証拠がないばかりか、労災保険に関する労働省労働基準局長通達の算定基準についても、神奈川県柔道整復師会ではこれを不当とせず、むしろ相当なものとして前示のとおり被告と協定を結んでいる程であるから、これらの事情に鑑みると、本件原告らに対する給付額決定の基準となった前記労働省労働基準局長通達の算定基準は相当であるということができる。