全 情 報

ID番号 05091
事件名 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 大阪西労基署長(吉嶺汽缶工業)事件
争点
事案概要  ボイラーの据付け工事の現場監督業務に従事中に突然倒れて急性心不全で死亡した労働者につき、業務上の死亡に当るか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法79条
労働者災害補償保険法7条1項
労働者災害補償保険法16条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1986年5月27日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和59年 (行ウ) 87 
裁判結果 棄却(確定)
出典 タイムズ608号56頁/労働判例477号34頁/労経速報1270号9頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 右認定の事実によれば、Aは昭和五〇年ころからうっ血性心筋症に罹患し、本件死亡に至るまで約五年の間概ね二週間に一回の割合で継続的に通院治療を受けるとともに、前後四回にわたり(入院期間は合計一八二日)入院して治療ないし心臓精査を受けたものであって、その間の所見がいずれもうっ血型心筋症の典型的症状を呈し、とりわけ初診時から最終診察時に至るまで一貫して心電図上の所見として心室性期外収縮が顕著であったことからすれば、同人の病状は一進一退を繰返しながらも予後不良で増悪の傾向にあったと推認することができ、将来心不全ないし突然死に至る蓋然性が高いものであったといわざるをえない。
 〔中略〕
 右認定の事実によれば、監督者が自らボイラー据付作業に従事することはあるにせよ、それは下請作業員の補充として手伝いの域を出なかったものと推認できる。もっとも、Aがいわゆる職人気質で仕事熱心な性格のため、下請作業員に率先して自ら据付作業に携わる機会が多かったことが窺われないではないが、それはあくまで同人の好意に基づくものというべく、このことは同人の業務内容についての前記認定を妨げるものではない。そして、Aが訴外会社へ入社以来一貫してボイラー据付工事に従事し、現場監督の経験も豊富であったことからすれば、Aにとって右現場監督の業務が過大な精神的、肉体的負担を伴うものではなかったというべきであって、この点に関する原告の主張は失当である。
 また、Aの休日労働については、右のとおり、現場監督者の業務内容及びこれに対する同人の習熟度に鑑みると、死亡前五か月度において月四日ないし七日の休日日数が現実に確保されていた以上、月四日ないし六日の休日労働があったからといって直ちに肉体的負担を増大させるものではなく、死亡月の残業についても、死亡前一週間に集中しているもののその内容は一日当り一時間の計四日にすぎず、労使間の取決めに照らしても過多とはいえないのであって、右休日労働及び残業をもって過酷な就労条件であったとする原告の主張は失当である。
 〔中略〕
 Aが死亡当日本件現場へ持参したボルト類はさほど重量のあるものではないし、垂直梯子の昇降についても、その高さは二・六五メートルにすぎず、同人がボイラー回りの小部品取付作業等のために常時昇降していたものではなく、さらに日常生活における駅等の階段の昇降段数と対比しても、右垂直梯子の昇降が正治にとって格別の肉体的負担となっていたとは認め難い。そして、死亡直前の銅管拡げ作業は特に強い力を要しない軽作業であるし、死亡当日の気象条件も、Aの作業現場であったボイラーのドラムの上やボイラー室前の温度が外気に比べ多少高かったにせよ、特に過酷な環境であったとまではいえない。以上を総合すると、結局、Aの死亡当日の作業が同人にとって過大な肉体的負担となっていたとはいえず、この点に関する原告の主張は失当である。
 なお、原告はさらに、Aが監督業務に伴い相当の重量物をかついだことによる肉体的負担を主張するが、右主張自体具体性を欠くのみならず、これに沿う原告本人尋問の結果もにわかに措信できないから失当である。
 四 以上認定の事実に(証拠略)及び弁論の全趣旨を総合して判断するに、Aの勤務状況、本件工事の状況及び死亡当日の状況等いずれの点から見ても、本件現場における同人の業務の遂行が基礎疾病を急激に増悪させたとは認め難く、却って、同人の健康状態に鑑みれば、基礎疾病たるうっ血型心筋症が自然的経過により増悪し、偶々業務遂行中に急性心不全の発作を惹起して死亡するに至ったものと認めるのが相当である。そうすると、同人の死亡と業務との間には相当因果関係がないことになるから、本件処分は何ら違法ではない。