全 情 報

ID番号 05111
事件名 行政処分取消請求事件
いわゆる事件名 飯田橋労基署長(大日本印刷)事件
争点
事案概要  印刷会社のロッカー室の管理人として一昼夜交替勤務に従事してきた労働者の橋脳出血による死亡につき業務上の死亡に当るか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法79条
労働者災害補償保険法7条1項
労働者災害補償保険法16条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 1987年12月22日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (行ウ) 153 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 タイムズ662号116頁/労働判例510号17頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 1 労災保険法の保険給付は、労働者の業務上の事由又は通勤による負傷、疾病、障害又は死亡に対して行われるのであるが(同法一条、二条の二、七条)、このうち、業務上の死亡に対して保険給付がされるためには、労基法七九条、八〇条に規定する災害補償の事由の存在、すなわち、その死亡が業務に起因する(以下「業務起因性」という。)と認められることが必要である(労災保険法一二条の八、労基法七九条、八〇条)。そして、この業務起因性が認められるためには、単に死亡結果が業務の遂行中に生じたとか、あるいは死亡と業務との間に条件的因果関係があるというだけでは足らず、これらの間にいわゆる相当因果関係が存在することが認められなければならないものというべきである(最高裁昭和五一年一一月一二日第二小法廷判決、判例時報八三七号三四頁参照)。〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 ところで、このように、それ自体が脳出血を発症させる大きな要因である高血圧症に罹患している者が脳出血により死亡した場合、その死亡について、業務起因性を認めるためには、業務の遂行が死という結果を引き起こす程度に著しくその者の高血圧症を増悪させたこと、いいかえると、業務に起因する過度の精神的、肉体的負担が、他の要因及び病状の自然的進行より以上に、その者の既に有する高血圧症という基礎疾病を急速に増悪させ、その結果、脳出血の発症を著しく早めたものであること、すなわち、業務の遂行が死に対して相対的に有力な原因となっていたことが認められなければならないものというべきである。
 この点に関して、被告は、業務起因性の判断基準として、発生状況が時間的場所的に明確にされ得る異常な出来事や、特定の労働時間内の特に過激な業務への就労というような災害又はそれに相当するような事態(以下「災害的事実」という。)の存在が必要であると主張する。
 確かに、右の基準は明確であり、災害的事実の存在が認められるならば、業務起因性の判断は容易になると考えられるが、そのような災害的事実が存在しない場合であっても、業務の遂行と死亡との間に相当因果関係が存在することを認めるべき場合があることは、当然であって、要は、立証の問題にすぎないのであるから、この点の被告の主張は採用しない。
 〔中略〕
 前認定のとおり、亡Aには高血圧症という基礎疾病のほか脳出血発症の原因となる他の要因の存在も認められ、これは決して無視できるものではないと考えられるのみならず、亡Aの高血圧症の症状の推移、特に昭和五一年暮れころからの状況などを併せ考慮すると、以上検討してきた亡Aの業務の同人の高血圧症に対する影響は、未だ、他の要因及び病状の自然的進行より以上に、同人の高血圧症を急速に増悪させて脳出血の発症を著しく早め、よって同人に死をもたらす程度のものであったと認めることができないものといわざるを得ない。
 (三) 結局、以上のとおり、亡Aの橋脳出血に対して業務の遂行が相対的に有力な原因となっていたことは認めることができない。
 〔中略〕
 4 以上によれば、亡Aの死亡と業務との間に相当因果関係が存在すると認めることができないから、同人の死亡に業務起因性がないとしてされた被告の本件処分に違法はない。