全 情 報

ID番号 05115
事件名 裁決取消請求事件
いわゆる事件名 本渡労基署長・労働保険審査会事件
争点
事案概要  業務上災害により休業補償等の給付を受給してきた者が治癒したとして打切りの処分を受けたのに対して、監督署長に休業補償等の給付を支給すべき義務があることの確認を求めて訴えを提起した事例。
参照法条 労働基準法76条1項
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 休業補償(給付)
労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 行政処分の存否、義務づけ訴訟等
裁判年月日 1966年2月28日
裁判所名 熊本地
裁判形式 判決
事件番号 昭和38年 (行) 8 
裁判結果 却下・棄却(確定)
出典 労働民例集17巻1号203頁/訟務月報12巻5号647頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-行政処分の存否、義務づけ訴訟等〕
 行政庁に対し一定の行政処分をなすべき義務あることを確認するむねの訴訟も、その行政処分について行政庁の裁量の余地がほとんどなく、他方かかる訴訟を認めないことにより人民の蒙る権利の侵害が著大なものとなり、しかもこれに対する適切な救済方法が他にない等の特段の事情のあるときには許容されると解されるけれども、本件の原告主張事実により右の特段の事情があるとは到底認められないから、被告本渡労働基準署長が昭和三四年一月一一日以降の休業補償費を原告に支給すべきむねの義務あることの確認を求める原告の訴は不適法として却下を免れない。
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-休業補償(給付)〕
 前理由二で認定した事実および同二、三の事実認定の用に供した前示の各証拠を全部綜合して検討すると原告の頭部外傷に対する治療は昭和三四年一月一〇日までには完了しており、前示の現症はその後遺症であるけれども右同日までには現在の医学による治療技術をもつてしてはこれらを有効に治療し軽快せしめる見込は殆んどなく、長時日を経過するうちには自然に症状が改善するかも知れないことに希望をつなぐ程度で、その改善に寄与するための医学的に有効な手段は考えられず、なおその後原告にはビタミン類等の注射を受けると症状が軽快化する場合があるかのようでもあるが、右は原告の精神態度に基因する心理的なものにすぎないことが認められ、また同一薬剤(たとえばアリナミン)でも錠剤を経口服用せしめると気分が悪くなると云い、注射をすると気分が軽快するむね申しむけたりする等医学的立場からは理解できない不自然な現象もあるので担当医師の中には原告が多少詐病的態度をとつているのではないかと疑う者もあり、また開頭手術にしても原告はこれを受けることを切実に希求する反面右手術の前提となるべき諸検査(たとえば脊随液の採取等)を受けることは極端に嫌忌してこれを拒否する態度をとるのみならず国立A大学医学部附属病院で受けた開頭手術の医学的効果も頭痛感を多少軽減したのみである反面、術後は症候性て?ノ、ん?ノ、か?ノ、ん?ノ、の症状を呈するようになり、原告が現在悩んでいる中、小の身体け?ノ、い?ノ、れ?ノ、ん?ノ、の症状はこれに基づくもので手術は全面的に成功したとは認め難く、再度の開頭手術の効果も全く不明であり、場合によつては施術の結果死亡するおそれもあり、他面前示の各後遺症が急に悪化するおそれも少なく、原告は現状でも気力さえおこせば軽度の労働には堪えうる事実がそれぞれ認められ右認定に反するような証拠はない。
 右認定した事実によれば原告の前示病的症状は昭和三四年一月一〇日までには固定しこれらの症状を医学的治療手段により改善する見込はなくなつていたと云うべきである。
 四、ところで労働者災害補償保険法第一二条第一項第二号の休業補償費は、労働基準法第七五条、第七六条により、業務上の負傷等の療養のため労働することができないために賃金を受けない場合の補償を行うものであるところ、同法第七七条労働者災害補償保険法第一二条第一項第三号等が負傷のなおつた後も精神、身体に障害のある場合のあることを当然の前提とし、これに対してその程度に応じ障害補償費を支給することにしていることを考えれば右の「療養中」と云うのは負傷等に基因する就労不能の全期間を意味するものではなく、負傷に対する医学技術による治療の効果が期待できる間の治療等による休業を意味すると解すべきである。