全 情 報

ID番号 05120
事件名 災害補償費不支給決定取消請求事件
いわゆる事件名 鹿屋労基署長事件
争点
事案概要  高血圧の基礎疾病を有するトラック運転手が運搬を終えてラジエーターの修理をした直後に発症した蜘蛛膜下出血により死亡したことが業務上に当るか否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法12条2項(旧)
労働基準法75条
労働基準法施行規則35条38号
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1967年2月27日
裁判所名 鹿児島地
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (行ウ) 1 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集18巻1号98頁/訟務月報13巻4号462頁
審級関係
評釈論文 花見忠・ジュリスト401号125頁
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 3 右Aの死因が蜘蛛膜下出血であることは当事者間に争いがなく、同人が生前本態性の高血圧症という基礎疾病を有していたことは前記二で認定したとおりであるところ、本件疾病が労働基準法施行規則第三五条第三八号所定の「業務に起因することの明らかな疾病」に該当するか否かについて判断するに、ここに業務に起因することの明らかな疾病とは、原告主張のごとく単に当該業務がなかつたならば当該疾病がなかつたのであろうと考えられるような条件的な関係が認められるだけでは足りず、当該業務が当該疾病の有力な原因であり両者の間に相当な因果関係があることが認められるものでなければならない。すなわち、災害医学的見地から労働災害と評価できる程度に強度な身体的精神的努力をした場合、強度な身体的精神的疲労の累積をもたらす業務が先行していた場合、突如として激しい精神的シヨツクに打たれた場合等当該業務が蜘蛛膜下出血を惹起するため相当程度有力な原因となつたことが認められてはじめて業務と疾病との間に相当因果関係があるものとしてこれを業務に起因して発病したものと認めることができるものと解すべきである。
 ところで前記認定事実によれば、右Aの時間外勤務による疲労の累積も通常の運転手に比較して特に強度であつたものとは認めがたく、一方(証拠省略)を総合すれば、ラバーホースの修理、運転等事故当日の業務内容ならびに当日の寒冷度等の気象条件が右Aのもつていた高血圧症を悪化させて蜘蛛膜下出血を誘発する一因となつた可能性のあることはこれを認めることができるにしても、またこれら証拠によれば高血圧症患者の場合日常起居の間に些細なことを誘因として同様の症状を発現する可能性のあることが認められるので、前記認定のとおり同人が本態性高血圧患者であつたことを考慮するとき、いまだ右業務気象条件等が本件疾病を引きおこすための有力な原因となつたとまで認定することは困難であり、結局他に特段の立証のない本件においては右Aの当該業務と蜘蛛膜下出血の疾病との間には相当因果関係があつたと認めることができない。