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ID番号 05122
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 江州運輸事件
争点
事案概要  第三者災害に関連して国が加害者に対して求償権を行使したケースで、自動車事故による負傷者の損害が示談契約の当時予想に反して後日異常に増大した場合における権利放棄条項の意義が争われた事例。
参照法条 民法709条
民法695条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1968年3月15日
裁判所名 最高
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (オ) 347 
裁判結果 棄却
出典 民集22巻3号587頁/時報511号20頁/タイムズ218号125頁/訟務月報14巻4号369頁/裁判所時報498号1頁/裁判集民90号675頁
審級関係 控訴審/大阪高/昭39.12.16/昭和38年(ネ)1590号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 一般に、不法行為による損害賠償の示談において、被害者が一定額の支払をうけることで満足し、その余の賠償請求権を放棄したときは、被害者は、示談当時にそれ以上の損害が存在したとしても、あるいは、それ以上の損害が事後に生じたとしても、示談額を上廻る損害については、事後に請求しえない趣旨と解するのが相当である。
 しかし、本件において原判決の確定した事実によれば、被害者Aは昭和三二年四月一六日左前腕複雑骨折の傷害をうけ、事故直後における医師の診断は全治一五週間の見込みであったので、A自身も、右傷は比較的軽微なものであり、治療費等は自動車損害賠償保険金で賄えると考えていたので、事故後一〇日を出でず、まだ入院中の同月二五日に、Aと上告会社間において、上告会社が自動車損害賠償保険金(一〇万円)をAに支払い、Aは今後本件事故による治療費その他慰藉料等の一切の要求を申し立てない旨の示談契約が成立し、Aは右一〇万円を受領したところ、事故後一か月以上経ってから右傷は予期に反する重傷であることが判明し、Aは再手術を余儀なくされ、手術後も左前腕関節の用を廃する程度の機能障害が残り、よって七七万余円の損害を受けたというのである。
 このように、全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて、早急に小額の賠償金をもって満足する旨の示談がされた場合においては、示談によって被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきであって、その当時予想できなかった不測の再手術や後遺症がその後発生した場合その損害についてまで、賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは、当事者の合理的意思に合致するものとはいえない。