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ID番号 05135
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 共栄塗装事件
争点
事案概要  労働災害の被災者が、加害者たる会社を相手に損害賠償を請求したケースで、将来引き続き支給されるはずである休業補償費が右損害賠償額から控除されうるか否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法20条1項(旧)
労働者災害補償保険法20条2項(旧)
体系項目 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償
裁判年月日 1971年6月21日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 昭和44年 (ネ) 527 
裁判結果 一部変更・棄却(上告)
出典 時報653号111頁
審級関係 上告審/05137/一小/昭46.12. 2/昭和46年(オ)878号
評釈論文 中田明・ジュリスト566号107頁
判決理由 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕
 労働者災害補償保険法二〇条によれば、同条は、労働者が保険関係外の第三者の不法行為によって業務災害をこうむった場合、政府が同法に基づいて保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、政府は保険受給権者が第三者に対して有する損害賠償請求権を代位取得し、また保険受給権者が第三者から同一事由につき損害賠償を受けたときは、政府はその限度で補償義務を免れる旨を規定し、業務災害が第三者の不法行為によって生じた場合、その第三者の民法上の損害賠償責任と労働者災害補償保険法上の政府の労災補償責任とは相互補完の関係にあり、したがって同一事由による損害の二重填補を排除するものである趣旨を明らかにしている。右規定の趣旨にしたがえば、保険受給権者が政府から保険給付を受ければ加害者たる第三者に対する損害賠償請求権はその限度において当然国に移転するから、その後においては保険受給権者は加害者に対しもはや右移転した損害賠償請求権を行使するに由ないものであるが更に同条が明示する相互補完と二重填補排除の趣旨にかんがみれば、国が加害者に対する損害賠償請求権を代位取得するのは現実に保険金を給付して被労災労働者に対する損害の填補をなした時に限られると解するのが相当である。そうだとすれば、たとえ将来にわたり継続して定期的に定額の休業補償費が給付されることが確定していても、それは単なる期待権の域を出るものではなく、いまだ被災労働者の損害を填補すべき現実の保険金給付とみなすことはできないから、これにより国が損害賠償請求権を代位取得し、右保険受給権者の加害者に対する損害賠償請求権が消滅するものではなく、したがって将来の給付額を損害額から控除すべき根拠はないものというべきである。