全 情 報

ID番号 05143
事件名 休業補償不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 池袋労基署長事件
争点
事案概要  事故(業務上)後二〇年してから現われた肘変形性関節症による右尺骨神経遅発性マヒにつき業務上に当るか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法76条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 1973年4月12日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (行ウ) 221 
裁判結果 認容(確定)
出典 時報722号55頁
審級関係
評釈論文 岡村親宜ほか・労働法律旬報839号61頁
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 昭和二三年一〇月二三日午後三時三〇分頃、原告はセメント袋(五〇キログラム入り)を一階倉庫から二階工場まで肩にかつぎ運搬する作業に従事中、右袋をかつぎ上げようとした際、傍の十数段山積みになっていたセメント袋の一部(三、四袋)がくずれ落ちて原告の体に当り、原告はその衝撃で仰向けに転倒したが、その際原告の胸部・右腕部がそれらのセメント袋の下敷きになったこと、原告は直ちに独力で右腕を右セメント袋の下から抜きとって、立上ったものの、右腕肘附近に痛みを感じたので、当日の残りの運搬作業を中止し、終業時まで休業していたこと、その后帰宅し、ぬり薬を貼り、妻に右肘部をマッサージさせる等の手当を行なった結果、痛みはやや軽減したが、完全に痛みがなくなったのはその後三、四ケ月たってからのことであったこと、その間はり薬を貼り、家族の者にマッサージをさせる等の素人療法をやった外には医師の診察も治療もうけず、会社での作業は、従前よりも軽い作業に従事していたが、会社も休まなかったことが認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
 (2) 本件受傷後、本件疾病となるまでの経過
 《証拠略》によれば、前記認定のように受傷後約半年位は、痛めた右腕をかばいながら片付け作業、煙突運搬作業、巻取り作業等の軽作業に従事し、痛みがとれた後も右作業を継続し、従前のセメント袋等の重量物運搬作業には昭和二七年頃から従事するに至ったこと、ところで昭和二六年頃、右前腕がやや延びず、曲がった状態になっているのに気づいたが、特に痛み等を感じないため、そのまま放置していたこと、昭和三三年頃、右肘部に軽い痛みがあり、接骨院に通院、治療を受け、一週間位で痛みもとれたため再び通勤するに至ったこと、その後昭和四三年六月下旬頃、右手環指、小指部分にしびれを感じ、水に漬けると突端が痛んだため、A病院で診察を受けた結果同年七月一日右尺骨神経不全麻痺、右肘関節強直の診断を受け、同月一六日まで通院加療、その後同年七月一九日順天堂医院では右尺骨神経遅発性麻痺の診断を受け、同病院で同年八月一五日手術を受けたこと、会社へは同年七月一日以降同年一〇月七日現在欠勤していることが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
 (3) 本件受傷と本件疾病との関連性
 【1】 《証拠略》によれば、原告の本件主訴の原因である右尺骨神経遅発性麻痺は、右肘の著名なる変形性関節症によるものであること、肘部における変形性関節症は一次性のものは稀で多くは肘関節の外傷又は炎症後に漸次に発生する二次性のものであり、高年の男子労働者にみられるものであることが認められ(る。)《証拠判断略》
 【2】 《証拠略》によれば、原告は本件受傷以外には受傷経験がなく、又本件受傷以前は右肘は正常であったこと、原告は本件受傷については、必ずしも医者にかかる必要を認めなかったからではなく、入社早早で会社を休みづらく、金もなかったので医師の治療も受けなかったこと、前記原告の右肘の変形性関節症は原告の右受傷に起因するものと考えるのが妥当であることを認めることができ(る。)《証拠判断略》
 【3】 右事実に前記各認定事実を総合すれば、原告の本件疾病は業務に起因することが明らかなものと解するのを相当とし、従って、原告の本件疾病は業務上の疾病というべく、これと異る判断の下に原告に対し、本件休業補償費を支給しないこととした被告の本件処分は事実の認定を誤ったもので取消を免れない。