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ID番号 05146
事件名 損害賠償請求控訴/同附帯控訴事件
いわゆる事件名 常石造船所・浦賀重工業(住友重機工業)事件
争点
事案概要  クレーンの据付け後その試運転の際にクレーンが倒壊して重傷を負った労働者がクレーンの基礎部分を構築した会社等を相手として損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法709条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1973年6月30日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ネ) 1210 
昭和47年 (ネ) 1411 
裁判結果 一部変更・取消・棄却(確定)
出典 時報713号61頁/東高民時報24巻6号124頁/タイムズ298号234頁/交通民集6巻3号811頁
審級関係 一審/横浜地/昭45. 4.25/昭和43年(ワ)1450号
評釈論文 岡村親宜・労働法律旬報839号50頁/水野勝・労働判例181号19頁
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 前記認定のような本件クレーンの基礎部分が民法第七一七条第一項の土地の工作物にあたることは多言を要しないところであり、そして控訴人会社が右基礎部分を構築した土地は控訴人会社がA株式会社から賃借している土地であることは控訴人の自認するところであるから、控訴人会社は権原に基き右敷地に右基礎部分を構築したものであって、右基礎部分は土地に附合することはなく、控訴人会社は右基礎部分を構築したことによりその所有権を取得し、かつ右基礎部分は少くともそれが構築された時期においては控訴人会社の占有にあったものと認められる。
 ところで、《証拠略》によれば、本件クレーンの本体は昭和四一年四月一七日から据付工事にかかり同月二七日据付を完了したものであるが、控訴人会社とB重工との間の契約においては、クレーン本体はB重工において試運転を行った上控訴人会社に引渡す約定であり、そして本件事故は右引渡前の試運転の段階で発生したものであることが認められるのであるが、前記認定のとおり、本件クレーンの本体は基礎に埋め込んだアンカーボルトにナットで固定される構造のものであるから、一旦据付を完了しても取りはずすことができ、そして前記甲第九号証によると、B重工は本件クレーン本体の据付に関する機械工事をC有限会社に請負わせ、同会社は一一日間延六〇人くらいの従業員を使用して据付をし、その請負代金は約四〇万円であり、更に電気工事はD株式会社が請負いその請負代金は一五万円であったことが認められるから、その取りはずしも概ね同程度の手数と費用で足りるものと推察され(据付に一五〇万円以上を要し、これを取りはずし他のクレーン本体を据付けるとすれば二〇〇万円ないし二五〇万円を要するとの控訴人の主張を認めるに足りる証拠はない。)、そして、《証拠略》によれば、本件クレーン本体を控訴人会社がB重工に発注した代金は七四五万円であると認められるから、右据付の費用ならびに取りはずしの費用はいずれも右代金の一割以内と認められ、したがって、本件クレーンの本体は一旦本件基礎部分に据付けた以上は取りはずしが困難であるということはなく、物理的にも経済的にも十分取りはずしが可能であると認められる。一方本件クレーンの基礎部分も、その構築費用を審かにする資料はないけれども、前記のような大きさに照してかなりの費用を要したものと認められ、そして右基礎部分が本件クレーンの本体を据付ける目的で構築されたものであることは弁論の全趣旨に照らし明らかではあるが、埋め込まれたアンカーボルトの配列に適合するように制作される限りは、他のクレーンを据付けることも可能であることは明らかに認められるところであり、本来前記のような瑕疵さえなければ本件クレーンの本体を取りはずしても全く経済的価値を失うものではなかったと考えられる。以上のような点から考えると、本件基礎部分はこれに本体を据付けたからといって直ちに本体と附合しこれと一体となって権利の客体となるということはなく、それぞれ独立して権利の客体となり得るものであると解するのが相当であり、クレーン本体が控訴人に対する引渡前であって、いまだB重工の所有ならびに占有に属したからといって、本件基礎部分の所有権が本体の据付によってクレーン本体の所有者であるB重工の所有に帰するものと解することはできず、また基礎部分が試運転等のために一旦B重工に引渡されたことを認めるに足りる証拠もないから、本件基礎部分は依然控訴人の占有に属したものといわなければならない。叙上の認定を覆すに足る事実の立証はない。
 そうとすれば、本件基礎部分に前記のような瑕疵があって、その瑕疵が本件事故の原因となった以上、控訴人会社は民法第七一七条第一項の規定によって、本件事故によって損害を蒙った者に対しその損害を賠償すべき義務あるものといわなければならない。