全 情 報

ID番号 05184
事件名 遺族補償年金等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 阿倍野労基署長事件
争点
事案概要  運送会社の運行管理責任者兼配車係が自己の立てた配車計画により運行したトラックが日を接して事故を起こし社長から厳しく叱責を受け、その事故車を点検中にくも膜下出血を発症して死亡したことにつき右死亡が業務上の死亡に当るか否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法1条
労働基準法79条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1978年1月18日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (行ウ) 87 
裁判結果 棄却(確定)
出典 訟務月報24巻1号142頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 2 〈証拠略〉によれば、昭和四五年五月二六日Aのたてた配車計画に従つてB劇場へ舞台装置具を運んだ五台のトラツクが仕事を終えて帰る途中、翌二七日午前〇時二〇分頃伊丹市内の交差点において最後尾車が信号を無視したため先行タクシーに追突し、更に対向タクシーとも衝突して会社に約二〇〇万円相当の損害を与えた事故が発生し、このため、Aは社長から、運転手が無用のスピード競争するのを避けるため、各運転手に対し各車の仕事が終わり次第別々に帰るよう指導するのを怠つたとして叱責を受けたこと、同月二九日、Aが名古屋方面に向けて配車した奴車付八トン積み大型トラツクが、長尺鋼材を積み過ぎ伊賀上野においてエンジンブロツクに穴をあけ、運行不能となつて(本件事故)、会社に約四〇万円相当の損害を被らせたため、Aは同日朝社長から配車のミスと過積の点につき叱責を受けたこと、右第一回の事故の際の叱責は、特別厳しいものではなかつたこと、本件事故の際の叱責は右事故対策の措置をとり、かつ当日の配車業務も片付いた午前八時頃から約三〇分間にわたるかなり厳しいものであつたこと、なお午前九時頃から再度注意、指導を受けたことが認められる。
 〈証拠略〉中、右認定に反する部分は採用できず、他に右認定に反する証拠はない。しかしながら、前記のように、Aは運行責任者としての経験も長く、〈証拠略〉によれば、その仕事は性質上細心の注意を要するが、小心翼翼とした者には勤まらない種類のものであり、社長もいつまでも従業員の失敗を責める型の人物ではないことが認められ、これらの事実に照らすと、Aは、その責任を強く感じたとしても、とりたててシヨツクを受けたとも認めがたく、〈証拠略〉中、Aが小心な面を有していたとの趣旨を述べた部分はにわかに措信しがたい。
 仮に、Aが右事故に対する自責の念から相当な精神の緊張および興奮の状態にあつたとしても、〈証拠略〉によると、Aの場合、医学上、右事故発生を始めて知つたとき、又は最初に叱責を受けたときに最も緊張あるいは興奮するものであつて、血圧の上昇にもそのときのそれが最も大きく影響することが認められるから、前記のように、Aが本件事故車の故障部位を目のあたりにして再び血圧の上昇をきたしたとしても、その程度は本件事故の発生を当日始めて知つたとき、又は当日午前八時頃叱責された際には及ばないものとみざるを得ない。
 3 そうだとすると、右の機会に発生したAの脳動脈瘤の破裂は、同人の有していた基礎疾病たる脳動脈瘤の自然増悪によるものか、右基礎疾病が既に破綻寸前になつていて、日常の起居動作によつても破裂すべき状態にあつたもので、前記業務は単なる機会原因を与えたものにすぎないといわなければならない。
 4 なお、前記のように、Aは事故車の故障部位を頭を下げた状態で、四、五分間調査したことが認められるけれども、かかる動作は日常の立居振舞の部類に属するものというべく、これによつてAの発病が促されたとすれば、それはやはり、業務が本件疾病に対し機会原因を与えたにすぎないとみるべきである。