全 情 報

ID番号 05202
事件名 労災保険給付不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 武雄労基署長事件
争点
事案概要  大工として労災保険の特別加入者である者が増築工事の際の転落事故および足場を踏み外して後頭部を強打した事故のあと脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血と診断され手術を受けたが、頭痛が激しく後遺症に悩まされるとしてこれを業務に起因するものとして療養補償給付等を請求した事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項
労働者災害補償保険法13条
労働基準法75条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1988年9月30日
裁判所名 佐賀地
裁判形式 判決
事件番号 昭和60年 (行ウ) 7 
裁判結果 棄却
出典 労働判例527号20頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 脳動脈瘤には、先天性のものと外傷性のものがあるところ、原告の脳動脈瘤は後下小脳動脈分岐部に存在し、同所は先天性脳動脈瘤の好発部位であり、当時の原告の年齢は四四歳であり、四〇歳から六〇歳が先天性脳動脈瘤の好発年齢であることから、原告の脳動脈瘤は先天性のものと考えられること、脳動脈瘤の破裂は、血圧が変動した場合に起こることが多く、入浴時、排便時、睡眠時など日常生活においても発生するものであるが、髄液検査の結果及び臨床所見からみて、原告の動脈瘤破裂は、昭和五五年一一月二七日午前一一時頃に自然発生的に生じた可能性が高いことが認められる。
 そして、労働者災害補償保険法所定の「業務上の疾病」とは、業務との間に相当因果関係が存在する疾病を意味するものであって、業務遂行中発症した疾病が先天性疾患等の基礎疾病を原因とする場合には、業務に起因する過度の精神的、肉体的負担によって労働者の基礎疾病が自然的経過を超えて、急激に悪化し、その結果発症に至ったと認められるときに、はじめて業務と右発症との間に相当因果関係の存在が肯定されると解すべきところ、原告には先天性の脳動脈瘤という基礎疾病が存在し、鴨居の溝さくり作業中に本件疾病が発生したことは既に認定したとおりであるから、原告に業務に起因する過度の精神的、肉体的負担があったか否かについて検討する。昭和五五年一一月二七日の原告の作業状況をみるに、前記認定事実によれば、鴨居の溝さくり作業については、原告には電動溝切り機の使用経験がある上、右工具を支えていたのはAであり、しかも途中何回か休息しながらの作業であり、右作業前に原告が行ったのは外装板を打ちつける等の作業であって、特に当日原告が質的にも量的にも著しく過重な労働に従事していたとはいえない。さらに、本件疾病の一週間前の原告の作業状況についてみるに、(証拠略)によれば、時間外労働はなく、一一月二〇日は、半日の就労、二一日と二三日は就労していないことが認められ、本件疾病の原因ないし誘因となるような強度の疲労が原告にあったということはできない。
 そして、他に原告に業務に起因する過度の精神的、肉体的負担があったことを認めるに足りる証拠はないから、本件疾病を業務上の疾病と認めることはできない。