全 情 報

ID番号 05275
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 エクイタブル生命保険事件
争点
事案概要  業績不振を理由とする営業所長から営業社員への降格、および右降格処分後の不就労を理由とする懲戒解雇が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
裁判年月日 1990年4月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 平成1年 (ヨ) 2274 
裁判結果 却下
出典 労経速報1393号7頁/労働判例565号79頁
審級関係
評釈論文 国武輝久・労働判例百選<第6版>〔別冊ジュリスト134〕64~65頁1995年5月/小畑史子・ジュリスト986号98~100頁1991年9月15日
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 2 役職者の任免は、使用者の人事権に属する事項であって使用者の自由裁量にゆだねられており裁量の範囲を逸脱することがない限りその効力が否定されることはないと解するのが相当である。これを本件についてみると、債務者は本件業績表の各項目の成績によって各営業所長の能力評価を行い、これに社長等の各営業所長との面談の結果や各支社長からの各営業所長の業務遂行状況についての報告を加味して総合的に営業所長としての適性を判断した結果債権者らを含む四名の営業所長について能力が劣ると判断して所長代理に降格する旨を通告し、債権者らの承諾を得られないまま債権者らを所長代理とした場合の受入れ営業所側の不都合を考慮して本件降格を行ったことは前記認定のとおりであり、これによれば本件降格について債務者がその裁量権を逸脱したものとは認められないものといわなければならない。これに対して、債権者らは、本件業績表は従来の評価基準と矛盾するばかりでなく、営業所長の評価を行う場合には各営業所の条件を考慮に入れて比較をしなければならないにもかかわらず債務者は本件業績表によって機械的に営業所長の評価を行っており、本件業績表による評価は公正なものとはいえないと主張する。しかし、疎明資料によれば本件業績表が従来債務者から営業所長の業績評価法(案)として公表されていたものと異なるものであることは一応認められるが、これと矛盾するものとは認められず、さらに役職者についてどのような評価基準でその成績評価を行うかは使用者の裁量に委ねられているものと解されるから、本件業績表の評価項目自体が著しく不合理であると認められる事情がない以上本件業績表による評価が不公正なものであるとはいえないところ、本件業績表の評価項目自体が著しく不合理であることについての疎明はない。また、債権者らの各営業所は昭和六三年三月から営業を開始したものであるが、疎明資料によれば、同じ時期に営業を開始した池袋第三及び第四の各営業所長については本件業績表による評価が低いものではないことが一応認められ、本件業績表による評価にあたって営業の開始時期を考慮しないことが債権者らにとって特に不利益になるものとは解されず、本件降格に際しての各営業所長の能力評価が本件業績表によって機械的に行われたものではないことは前記認定のとおりであり、債権者らの主張を考慮しても本件降格が使用者の有する裁量権を逸脱してなされたものとは認められない。
 3 債権者らは、本件降格は給与規定一五条の六第二項に違反すると主張し、疎明資料によれば、債務者の就業規則第二条には「この規則において従業員とは第三条に定める者を除き、会社の雇用するすべての者をいう。即ち、管理職、事務職、専門職及び営業社員をいう。」との、第二九条には「従業員の給与に関しては、給与規定および営業社員給与規定の定めるところによる。」との、債務者の給与規定第二条には「この規程の適用の範囲は従業員のうち、事務系職掌の管理・専門職、一般事務職および営業系職掌の管理職・営業事務職とする。」との、第一五条の六第二項には「規定の役職を解任された者に対しては懲戒の場合を除き、降級させることはない。ただし、職務給・営業管理職手当は支給しない。」との規定があることが一応認められる。このように債務者の給与体系は営業社員とその他の従業員とを明確に区別したものとなっているのであるから、給与規定第一五条の六第二項が適用になるのは給与規定第二条に規定されている職種相互間の異動の場合であり、営業管理職から給与体系の異なる営業社員への異動の場合には適用されないものと解するのが相当である。本件降格は営業管理職から営業社員への異動であるから、給与規定一五条の六第二項は適用されず、本件降格が同条項に違反するということはない。また、疎明資料によれば、債務者の就業規則には懲戒処分の一種類として降格処分が規定されていることが一応認められるが、懲戒処分としての降格処分が定められているからといって、使用者の人事権に基づく降格処分の行使ができなくなるものと解するのは相当ではない。したがって、本件降格が債務者の就業規則及び給与規定に違反するものとはいえない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
 2 そこで、債権者らの前記(二)から(四)までの行為が懲戒解雇事由に該当するか否かについて判断するに、債務者の就業規則四一条には従業員が別表に定める事由の一に該当すると認めた場合はその行為に対して懲戒解雇を行う旨が規定され、別表の定める事由の一として業務命令違反(正当な理由なく、会社又は上司の命令に従わなかった場合)があげられていることが一応認められ、債権者らの前記(二)から(四)までの行為、ことに前記(四)の三か月半以上にわたって営業活動をほとんど行っていなかったことは懲戒解雇事由の業務命令違反にあたると解するのが相当である。