全 情 報

ID番号 05301
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 三菱工業事件
争点
事案概要  使用者が、解雇した従業員の占有せる社宅、寮につきその占有を解き執行吏に保管させるべき旨の仮処分を申請した事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法95条
体系項目 寄宿舎・社宅(民事) / 寄宿舎・社宅の利用 / 被解雇者・退職者の退去義務・退寮処分
解雇(民事) / 解雇事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1948年10月7日
裁判所名 長崎地
裁判形式 判決
事件番号 昭和23年 (ヨ) 47 
裁判結果 申請認容
出典 労働民例集2号29頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-違法争議行為・組合活動〕
 申請人会社の被申請人等に対する本件解雇が果して申請人主張のように有効であるかどうかについて、検討するのに昭和二十三年五月二十四日、日本石炭鉱業連盟及び全日本石炭産業労働組合中央本部間に成立した賃金中央協定に基く採炭夫の採炭目標実施について、申請人会社と第一第二組合との間に同年七月二十二日以降申請人主張のように数次に亘り交渉を重ねて来たが、協定成立に至らなかつたこと。同年八月四日夜組合側が従業員大会を開催し引続き深更職場代表会議を施行し、その場において四十八時間ストを決議し、その結果、五、六両日多数の採炭夫の集団的欠勤を生じたこと、幸いに右ストは組合が極力一般従業員に対し就業を督励したので、八月七日に至つて解消し、平常に復することができたが、坑内には申請人主張の各日時主張のような施設破損の不祥事件が相次で起りA新聞はこれ等の事故を以て炭鉱爆発の計画を示すものと報道するに至つたこと、而かもその坑内においては同月七日より二十一日迄引続いて生産サボ状態が継続し、翌九月一日にはB寮寮生の一部が、申請人主張のように、ストに突入した事実は、これ亦いずれも当事者間に争いのないところであり、成立に争のない疎甲第一乃至第五号証第九号証の一、二、証人Cの証言により眞正に成立したと認める同第十号証の一乃至十七、第十六号証、並びに証人D、C(第一、二回)E、F、G、Hの各証言に右集団欠勤及びB寮々生のストがいずれも第一、第二、両組合の指令によるものでないことの当事者間に争いのない事実を綜合すること、前示採炭目標につき、申請人会社は当初二、九六凾を主張したが、団体交渉に当り二、八五凾まで譲歩したのに対し、組合側は、終始二、五三凾を堅持し、態度が頗る強硬であつたゝめ、交渉が停頓し会社側において中央協定に基き紛争処理機関に提訴する旨揚言するに至つたが当時は未だ団体交渉が全く決裂するまでには立ち到つて居らなかつたと同時に、その後同月十三日九州地方紛争処理委員会において申請人会社の主張を以て正当なりと判定したことによつても判るように組合及び組合員側としては、むしろ自己の主張の当否を再検討した上譲歩すべきは譲歩し、信義に則り誠実に団体交渉を継続する必要があり、斯くしてもなお協定の余地がないようになつたときは、国家再建のため石炭生産の重要性に鑑み、紛争を平和的に解決するため、前示中央協定に基き紛争処理機関の議に付すべき責務を有しており、組合幹部たる被申請人等は斯様な中央協定の存在を知悉しながら、全くこれを無視し、組合の指令もないのに、四日夜両組合主催の下にI会館において従業員大会が開催された席上、参集した従業員の会社に対する不満を利用し、別段従業員の間にスト決行の空気もないのに、被申請人Y1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6等においてこれ等の参集者に対し実力行使により断乎闘争すべきことを強調し、散会後被申請人Y5において、各職場代表約百二、三十名の残留を求めた上右被申請人等及び被申請人Y7、Y8等よりスト決行を慫慂煽動し遂に二十数名のものにおいて秘に四十八時間ストを決議するに至り、その結果ついに五、六の両日に亘り多数の採炭夫の集団的欠勤を生じさせた外、被申請人Y9、Y10、Y5等は、機会ある毎に、従業員に対し生産サボを行うべきことを励奨して、同月七日より二十一日頃迄の間、従業員をして生産サボを決行させ同月中約四千八百屯の減炭を来させ、更にB寮々生等が会社の措置に不満があるのを捉えて、組合の指令もないのに、被申請人Y1、Y2、Y4、Y6等は、これを煽動してその一部をストに突入させるに至つたことを一応推認することができる、そうだとすると斯様な事情の下において被申請人等が多数の組合員を煽動して集団欠勤及び生産サボをさせ、申請人会社に対し著しい生産阻害を与えた叙上行為たるや労働関係調整法第四十条にいわゆる争議行為の範囲を甚しく逸脱する不当のものであること何等の疑をも容れないから、申請人会社が会社就業規則に則り賞罰委員会を開いてこれ等主謀者たる被申請人等を解雇する旨決議し申請人主張の日時主張のように被申請人等に対し解雇の通知をし、且つ労働基準法第二十条の規定により予告手当を支給するから受取に来るよう催告したけれども、受取に来なかつたので、右手当を弁済供託したことは、被申請人等の認めて争わないところであるから被申請人等に対する本件解雇は、これにより有効に効力を発生し被申請人等は申請人会社の従業員たる身分を失つたものといわねばならない。
〔寄宿舎・社宅-寄宿舎の利用-被解雇者の退去義務・退寮処分〕
 前認定のように被申請人等は申請人会社の従業員たる身分を失つた以上その身分に基いて使用及び立入を許容されて居た寮室、社宅及び現業区域を退去しこれに立入ることのできないことは当然であり、申請人会社が被申請人等の退去した寮室及び社宅に他の従業員を入居させることは申請人会社が斯様な設備をした趣旨より当然考えられる事柄であり、而かも炭鉱住宅の著しく不足して居ること及び増炭の一刻も忽せにすることのできないことは、当裁判所に顕著な事実であるから、最早鉱員でない被申請人等に不法に貴重な炭鉱住宅を占拠されたり、現業区域に立入られたりすることは、申請人の苦痛に堪えないところであり、申請人をして以上のような不当な立場より免れさせることを必要とする事情は、今日実に逼迫したものであると断じなければならない。以上の諸点並びに被申請人等が退寮又は立退をした場合の居住場所として、長崎市内二個所を準備してあるとの成立に争のない疎甲第七号証に徴し明かな事実を考慮するときは被申請人等に対する申請人の本件仮処分申請は相当として、これを認容すべきである。