全 情 報

ID番号 05328
事件名 社宅明渡請求事件
いわゆる事件名 山陽電気事件
争点
事案概要  賃料相当額を徴収していた社宅について使用者が、労働関係の終了を理由として社宅の明渡しを要求した事例。
参照法条 借家法1条の2
借家法3条
借家法6条
体系項目 寄宿舎・社宅(民事) / 社宅の使用関係
裁判年月日 1954年4月13日
裁判所名 長野地上田支
裁判形式 判決
事件番号 昭和27年 (ワ) 65 
昭和27年 (ワ) 69 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労経速報147号5頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔寄宿舎・社宅-社宅の使用関係〕
 社宅使用について、雇傭契約の締結より生ずる使用権なるものはこれを考えることは出来ず、むしろ社宅所有者たる会社と社宅使用者たる従業員間の契約に基くものと考えられる。これに対しては更に社宅の使用関係は団体法的色彩を帯びるものであつて、団体員が団体内部に定立せられた制度ないしは施設を利用する関係にあり、この関係は団体内部の組織規則つまり社宅貸与規則に従う状態ではないかという疑問も生ずる。しかし社宅貸与規則なるものは単に、社宅使用の内容を規律するに留り、右規則による従業員の社宅使用権が発生するものとは考えられないし、右規則の性質についても個々人が団体を組織し集団生活を営む場合、その団体内部において諸種の規則なるものが存在することはありうるものであるが、それらが、その団体を構成する各人を拘束するのは、各人がこれに従うことを合意しているから、ないしは法律に基き、各人がそのような規則に従うことを義務づけられている場合なのである。そして社宅の使用に関する社宅貸与規則なるものは特に法律に基くものであるとは認められないのであつて、従業員が右規則に従うのは従業員と会社との合意に基くからであるに過ぎない。従つて右規則に従うからと言つてたゞちに社宅の使用関係が契約に基くものでないとはいえない。しこうして証人Aの証言により真正に成立したと認めらる甲第一号証原告会社作成の職員工員住宅貸与規則についてみても、本件社宅の使用は前記の如く一般社宅の使用と同様、原被告間の使用契約に基くものであると認定することが出来る。しからば右使用収益が無償でなされる場合は使用貸借契約であり、対価の支払いが反対給付として約束されている場合は賃貸契約であると言えよう。
 勿論所有者たる原告は自己と雇傭契約を結んだものにのみ使用せしめる意思を有することは前述の如くであるが、しかし前述の如く雇傭契約の存在が、使用契約締結の前提となつているものの雇傭契約の締結により当然使用関係が形成されるものでもなく、且つまた雇傭契約の締結が使用契約の締結を義務づけるものでもないのであるから、他の契約と混合せる無名契約であるということは出来ない。
 〔中略〕
 原告会社従業員には住宅手当なるものが支給されているが、社宅居住者には右手当は支給されない事実等を綜合すれば、前記使用料は、前記証言の如く単に他の従業員との均衡上徴収されているものとは認めがたく且つ社宅使用についての通常の必要費の範囲を越えて、使用と対価関係に立つものであると解するを相当とする。そうだとすると本件社宅の使用については、原被告間にそれぞれ期限の定めのない賃貸借契約が締結されていたものである事実を認めることが出来、右認定をくつがえすに足る証拠はない。従つて右賃貸借契約が従業員たる身分を前提とする契約であつても借家法の適用を受けることは勿論である。そして原告会社の職員、工員、住宅貸与規則は前述の如く法律の委任に基き作成されたものであるとは、認められないのであるから、右規則中の借家人にして当社従業員の資格を失いたる時は無条件にてその日より十日以内に退却する旨の規定は、右借家法の規定に違反するものであつて、効力がない。
 〔中略〕
 思うに前記認定の原告の被告らに対する解約の意思表示の効力が本訴により維持されているとしても、解約の効果が発生するためには明渡しを求めるについての正当の事由の存在が六カ月間継続することを要するは勿論であるから、前記認定の事実があるとて将来はともかく現在においてはこれを正当の事由についての判断の資料とすることは出来ない。しかし右認定の如く原告は現在においても四戸の社宅はこれを必要とするのであるから、被告らのうち四名については、前記解約の効果に基き明渡義務を負うべきところ後に述べる如く被告Y1については原告との間に社宅を明渡すべき合意が成立しているのであつて、右合意解除の効果として同被告はその居住する社宅を明渡すべき義務を負つているので、右事実より原告は三戸の社宅の明渡を受けることにより、その必要性は充足されることになる。以上の次第であるから結局被告らのうち三名の被告は前記原告の解約の申入れに基き賃貸借契約は消滅し原告に対しその社宅を明渡すべき義務を負うことになる。そして右三名については原告においてこれを選択しないのであるから、被告らのうちよりその家族の構成職業の態様等を考慮して被告Y2、Y3、Y4が明渡義務を負うものと解するを相当する。