全 情 報

ID番号 05360
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 関西ペイント事件
争点
事案概要  公職選挙法違反により罰金刑を受けた事実に関する経歴詐称を理由とする懲戒解雇が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 経歴詐称
裁判年月日 1955年10月22日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和30年 (ヨ) 4001 
裁判結果 申請却下
出典 労働民例集6巻6号788頁/労経速報191号2頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-経歴詐称〕
 従つて労働者が雇傭契約締結に当り事実に反した前歴を記載し又は真実の前歴を隠蔽すること即ち前歴を詐ることは右にいう信義則に違反するものであつて、その義務違反従つて不信義的性格の故に対人的信頼関係が破壊されるのであり、その義務違反即ち経歴詐称がなかつたならば、雇傭契約が締結されなかつたであろうという因果関係が当該雇傭契約に即し社会的に妥当であると認められる程度に重大であるとき経歴詐称を理由とする解雇は適法であるといわなければならない。
 ところで本件においては前記の通り雇傭契約締結当時有罪判決は確定していなかつたのであるけれども、有罪判決の言渡自体がその言渡を受けた者に対する全人格的価値判断に重大な影響を有することは社会通念上疑を容れないところであつて、前記の評価基準に照して前歴に関する無関係の事項であるとは到底考えられない。
 即ち有罪判決の言渡自体は、罰せられたこととは客観的事実を異にするけれども、不確定的にも反規範的性格が宣言されたという意味において賞罰に関する人格評価の重要な経歴に属するものというべきであり、本件雇傭契約締結に当りその事実を隠蔽してこれを履歴書に記載しなかつたのは、全人格に対する評価の重大な基準事実を隠蔽してこれにより会社に対する自己の人格の評価に甚しい過誤を生ぜさせたもので別段の事情が認められない本件においてはその事実を諒知していたら雇用されなかつたであろうことを肯定するのが相当であり且右のように詐称するという不信義的性格を有するものであるから右は就業規則第八十三条第五号にいわゆる経歴を詐り雇い入れられたときに該当し一応懲戒解雇に値するものというべきである。
 もつとも本件においては仮に履歴書作成の際に有罪判決の言渡がなされていなかつたとしても、疏明によれば、その言渡後である同年十二月四日頃会社は申請人に対する採用のための面接考査の際申請人は賞罰の有無を尋ねられながら履歴書記載の事項に相違ない旨言明し右言渡の事実を隠蔽したことが認められるから、前記の結論に影響はなく、また履歴書に記載を要求される罰は社会通念上自由刑に限られ罰金等の財産刑は含まれないと解すべき根拠はないから、この点に関する申請人の主張は採用できない。