全 情 報

ID番号 05377
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 ニッポンタクシー事件
争点
事案概要  労働組合の指導的立場にあるタクシー運転手に対する水揚低下、業務命令違反等を理由とする解雇につき、権利濫用にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法20条
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1964年3月9日
裁判所名 長崎地佐世保支
裁判形式 判決
事件番号 昭和38年 (ヨ) 9 
裁判結果 申請認容
出典 時報378号36頁
審級関係
評釈論文 飯倉一郎・労働経済旬報601号28頁
判決理由 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 (三) 前顕証拠中特に申請人本人尋問の結果によれば申請人は本件解雇通告の際被申請会社社長より「あんたは水揚が非常に少ない。組合の幹部でもあり、あんたのような指導力のある者がそのようでは他の従業員に影響する。」と言われたこと、申請人はこれに対し「水揚の少なかつたことは申訳ないと思つているが、組合の仕事も一段落し健康も回復したので、これからは気張つて水揚を上げるから。」と本件解雇の撤回を求めたが聞き入れられなかつたこと、しかし本件解雇通告以前において申請人は水揚低下について事前に注意勧告を受けたこともなく、その理由の弁明を求められたこともなかつたこと、しかも、組合結成後これまで水揚低下を理由に解雇された者はきわめて稀であり、少なくとも事前の注意勧告がなされていたことが疏明される。
 一般に使用者は法律又は就業規則等に抵触しない限り自由に被使用者を解雇することができるが、一方企業の公共性と被使用者の生存権の保障の要請に基きその解雇は恣意的又は専断的濫用にわたらないよう内在的制約を受けるものと解すべきところ、以上の通りたとえ組合業務のためであつたにしても、申請人の水揚高低下が正当化されるものではあり得ないが、それはことさら会社に損害を与える目的や職場の秩序を乱す反企業的悪意に基因したものではなく、その水揚低下の程度は他の運転員に比べて必ずしも極度に著しくはなかつた上に、その期間は三、四箇月間の短期間に過ぎないこと、しかも被申請会社代表者本人尋問の結果によれば申請人は遅刻、無断欠勤などがなく性格がまじめで怠慢なところがなかつたと認められること、申請人の水揚高は漸次上昇の兆候を示しており、改善向上の見込が十分期待し得ること、それにも拘らず事前の注意警告もなく弁明の機会を与えずに突如として解雇したことなどを綜合勘案すれば本件程度の一時的水揚低下を理由に解雇することはまさに社会観念上認められる正当な解雇権の行使の範囲を逸脱した権利の濫用であると言わねばならない。
 (五) 《証拠略》によれば、申請人が野菜運搬をしたのは午前六時頃である上、その所要時間は三〇分前後であり、その回数は月に平均して四、五回程度であつたこと、従つて野菜運搬が水揚低下にいささかも影響していないとは言い切れないにしても、それが決定的且つ重大な原因にはなつていないと認められること、運転員は所謂勤務時間の特殊性から所定の休憩時間を任意にとつたり又これを就業時間に振替えることも許されており、市中を走行して随時随所で乗客を拾つて運送する勤務形態から、就業時間中でも暇な時は自己の私用を足したり、又そのために自己の運転する営業車を使うこともそれが一時的且つ軽微である限りある程度大目に見られていたこと、現に他の運転員が自家営業のために仕入商品を営業車で運搬していた事実が判明したが、被申請会社はその者に対し何ら特別な措置を講じていないこと、申請人が野菜運搬をしていることは当初から一部の運転員の間には知られていたが、それが本件解雇に至るまで格別問題にされていなかつたことが各疏明されることからすれば申請人の野菜運搬の如き行為は運転員間においてはそれほど著しい不都合な行為として意識されていなかつたことが認められる。
 そうすると、申請人に対してはかくの如き行為をしないよう将来を戒めれば足り、更に進んで解雇処分に付するに値するほどの非行ではなかつたと解するのが相当である。