全 情 報

ID番号 05383
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 日本通運事件
争点
事案概要  貨物運送会社の自動車運転者が会社指定路線外をわずかな回り道をしたことにつき、就業規定所定の懲戒事由である「会社の物品持出し」に該当せず、これを理由として選択された普通解雇が無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇の普通解雇への転換・関係
裁判年月日 1964年5月8日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和37年 (ヨ) 1162 
裁判結果 申請一部認容,一部却下
出典 労働民例集15巻3号433頁/時報385号67頁
審級関係 控訴審/01729/大阪高/昭42. 7.18/昭和39年(ネ)607号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒解雇の普通解雇への転換・関係〕
 同規則第八四条第三号の「職務上の指示命令に不当に反抗し事業場の秩序をみだしたとき。」とは、単に職務上の指示命令に正当の理由なく服従しなかつただけでなく、これに従わないことについての当該従業員の態度が強固であるとか、反抗的であつて諸般の状況からみてたやすくその遵守を期待できないことが推認できる場合を指すものと解するのが相当である。けだし右の場合にして、はじめて職場規律の違背が大なるものとの評価を受け、重い懲戒処分である解職(但し情状により謹慎または左遷)事由として規定したことの合理性を肯定しうるからである。そこで本件にあつては、なるほど申請人は前記状況のもとに指定経路外であるB線運行を約一年間、同じくD線運行を約三ケ月間反覆していたわけであるが、その間被申請会社から右運行について特別の注意を受けたことの疏明はない。もつとも証人Gは、前記E助手から乗組変更方希望の申出を受けた二、三日後、既に申請人に対し乗車勤務中の前記各場所への立寄りについて注意を与えた旨証言するが、右証言は前掲疏甲第三号証の二にあるF車輛課長の、右立寄りについては従前申請人に注意を与えていない旨の発言の記載及び申請人本人尋問の結果に対比するときは、たやすく措信できない。むしろ事の真相は、G証人の証言の一部に申請人本人尋問の結果を総合すると、E助手がG係長に対し前記乗組変更を希望する理由として、申請人が荷物の積み卸しの際などに助手に非協力的であり、また前記二個所へ立寄る旨指摘して能率があがらず、賃金に影響すると訴えたので、G係長は同年三月二七日頃申請人に対し、助手の取扱についての注意をしたが、その際右立寄りの目的がアカハタの受取り及び配付にあつたことを重視し、反つて右立寄りの点については、Eからの申出の内容の一部として申請人に伝えたにすぎなかつたことが疏明されるし、他方申請人においては既に前記のとおり反省して同年四月初めB線、D線の運行を取り止めている以上、申請人の右路線の運行が夫々前記期間に亘り反覆されていたというだけでは、直ちに指定経路運行の指示に不当に反抗したものと断定することはできず、他にこれを肯定するに足る疏明はない。
 次に、同条第八号の「業務に関し会社をあざむく等、故意または重大な過失により会社に損害を与えたとき。」に該当するかを検討するに、〔中略〕同条補則に「本条第八号は主として業務上の不正事故、たとえば背任横領をいう。」旨規定されている趣旨を考え合せると、右第八号は、業務が正常に運営されるについては信頼関係が不可欠のものとして要求されるところから、故意または重過失により会社に損害を与える行為のうち、特に業務上の背信行為ないし業務に関連した欺罔行為による財産侵害を重視し、これを独自の懲戒事由としたものと解されるが、前掲疏乙第六号証に証人Hの証言及び申請人本人尋問の結果を総合すると、B線はA線、C線に比し距離的に差はなく、A線の車輛輻湊時にはむしろ時間的に近道であるため、他の運転手も時にB線を運行することがあり、D線はC線の迂回経路であるが、その迂回距離としては約四〇〇米余のものにすぎず、D線沿道には被申請会社のガソリンスタンドが設けられていた関係上、他の運転手も同線を運行する場合のあることが疏明され、右事実から考えると、いずれにしても梅田貨物駅から中津車庫への帰庫或は同車庫から同貨物駅への出向に関する限りB線、D線の運行は、未だその目的を全く逸脱した性質のものでないことが窺われる。従つて前記申請人のB線、D線運行は、なるほど一面私用を果すためのものである以上、自己の利益を図つた事実はこれを否定することができないけれども、同時に被申請会社のための乗車勤務としての運行であることが明かであるから横領行為と断定することはできない。しかしながらもし右運行により被申請会社が損害を蒙つた場合は、単に指定経路運行の指示に従わなかつたという職場規律の違背に止らず、背任行為としての評価を受け、同号に該当する行為と認めるに妨げないところ、被申請人は、前記申請人のB線、D線運行及びその運行途上における立寄りが被申請会社に如何なる程度の損害を与えたかについては何ら具体的な主張をしない。もつともD線が指定経路であるC線に比し迂回経路であることは前記のとおりであるけれども、申請人のD線運行の回数、期間及びその迂回距離がいずれもさきに疏明された程度のものであり、さらに前掲疏甲第三号証の一ないし九により明かなように懲戒委員会の審議の経過においてもD線運行による損害の点については、特に論議の対象ともなつていないことを合せ考えると、前記申請人のD線運行により、たとえ被申請会社に多少燃料等の点で損害が生じたとしても、右の損害は全く僅少のものと推認されるところ、前記補則の文言に照らしても、かかる損害は同条第八号にいう会社に与えた損害として問題視すべきものではないと解するのが相当であり、従つて前記申請人の行為が同号に該当するとするには、その疏明がないといわなければならない。
 次に同条第九号の「前条各号の一(即ち第八三条第三号許可なしに会社の物品を持出し、または持出そうとしたとき)に該当し、その情状が重いとき」に該当するかを考えると右にいう物品持出しとは、会社の占有している或は従業員が会社のため保管している会社の物品につき、一時的にせよ会社の支配を排除し従業員が恰もその物品を自己の所有するがごとき支配におくことを指すものと解するを相当とするが、前記申請人の行為は右疏明のとおり私用のための僅かな廻り道をしたにすぎず、その間被申請会社の自動車に対する支配を一時的にせよ排除したとはいえないので、右条項に該当しない。
 しかして前記申請人の行為が就業規則第八四条の他の各号に該当しないことは、弁論の全趣旨により疏明される以上、既に説示したところから明かなように、被申請会社が就業規則第七〇条第一〇号を適用して申請人を一般解職にしたのは違法であり、その余の点を判断するまでもなく本件解雇は無効である。