全 情 報

ID番号 05391
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 神戸船渠工業事件
争点
事案概要  六カ月の見習期間中の養成工が定時制高校への出席不良であることを理由とする本工登用拒否につき、いまだ適格性を欠くとはいえないとして無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法21条
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 法的性質
労働契約(民事) / 試用期間 / 本採用拒否・解雇
裁判年月日 1964年7月18日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和37年 (ヨ) 725 
裁判結果 申請認容
出典 労働民例集15巻4号861頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-試用期間-法的性質〕
 以上認定の事実関係によると、会社は就業規則第四条に工員雇入の方式の一として一定の見習期間をおく本工採用制度をとつているところ、被申請会社の所謂養成工は、将来の現場における中堅幹部要員として、中学の新規卒業者を、公共職業安定所及び学校を通じて、厳格な採用試験を実施した上採用したものであり、前記求人情報によつても、会社は応募者を見習工として採用する旨及び永続雇傭を前提とした労働条件が示されていて、六ケ月の雇傭期間を定めて採用する趣旨の記載はなく、他方養成工は採用後六ケ月間は所謂見習工として働き右の期間を経過して引続き雇傭されることによつて本工に登用されていたものであることが明らかであるから、被申請会社の養成工は当初からその雇傭期間については永続雇傭を前提とした所謂期間の定めのない契約により採用されたものであつて、たゞ、採用後最初の六ケ月間に限つて単にこれを見習期間としたに過ぎないものと解すべきである。従つて被申請会社の就業規則上は第四条の一定期間の見習を命じられた者に該り、期間を定めて雇傭された所謂臨時工その他第六条にいう臨時雇入者とはその性質を異にするものと言わなければならない。もつとも、前記労働契約書用紙には雇傭期間として昭和三七年四月二日から同年一〇月二〇日迄とする旨の記載はあるけれども、以上の諸事情に照らし右期間は雇傭期間ではなく見習期間の意義に理解すべきものである。
 次に、被申請会社の養成工は、その見習期間中は所謂本工とはされておらず、採用後六ケ月の見習期間を経過して引続き雇傭せられることによつて本工に登用されるのであるが、会社は養成工採用の際最初の六ケ月間は見習であつてその間の勤務成績等を勘案して本工に登用するか否かを決定する旨説明していること、就業規則第四条には、「見習期間を設けられた者が見習を終て引続き採用されるに至つた時はその当初から採用されたものとする。」と規定されており、且つ養成工が見習期間を経過して本工に登用される際に改めて雇傭契約書を取交すとか保証人の保証書を提出させる等の手続はとつておらないし、右期間経過の前後においてその職務内容にも変化がなかつたことを考え合わせると、被申請会社の養成工は最初の六ケ月間を見習期間としてその技能の養成、習得を目的とするとともに、その期間内において会社側が従業員としての適格性について判断し、これに欠けるところがなければ、右期間を経過することによつて当然に見習工から本工に登用されるものと解すべきである。
〔労働契約-試用期間-本採用拒否・解雇〕
 右に認定した事実関係からすると、被申請人が申請人について適格性を欠く事由として主張するところのうちその存在を認めうるのは産業高校への出席状態が不良であると言うことのみであり、申請人の出席率はかなり低いことは被申請人主張のとおりであるが、それにしても七〇%を上廻つており、且つ本工に移行した前記Aと対比しても同人とは出席率において僅か一・三%の差しか存せず遅刻、早退の回数においては却つて右Aの方が申請人よりも多いし、他方労働基準法第七章の技能者養成制度の下における養成工のように教習時間が全て労働時間とみなされる場合であれば格別、被申請会社のごとく、定められた勤務時間以外に定時制高校に通学している養成工にあつては、主として企業内における勤務状態によつて従業員としての適格性を判断すべきであつて、定時制高校への通学状態にその重点を置くことはできないものと言うべく、まして定時制高校に通学することが雇傭契約の内容若しくは労働条件になつていない本件においてはなお更である。(この点は被申請人において自認するところである)また前記認定のように高校通学の期間中、当初の六ケ月間のみを問題とし、その後の三年六ケ月間の通学については全く不問に付すると言うのでは、何故に当初の六ケ月間だけをかく厳格に義務付けるのか、少くとも四年間高校へ就学させることによつて従業員の養成をはかると云う趣旨からは社会通念上その合理性に乏しく、要するに申請人の会社における勤務状態そのものは決して悪くないのであるから、前記産業高校への出席状態不良の点のみをもつてしては未だ申請人が本工に登用されるにつき適格性を欠くとは認め難く従つて本件雇傭契約終了の意思表示はその余の無効原因の有無について判断するまでもなく無効であると言わなければならない。