全 情 報

ID番号 05412
事件名 地位保全仮処分命令申請事件
いわゆる事件名 駐留軍労務者事件
争点
事案概要  駐留軍労務者に対する保安解雇が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法3条
労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 保安解雇
裁判年月日 1965年5月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (ヨ) 2123 
裁判結果 申請却下
出典 タイムズ179号168頁/訟務月報11巻8号1141頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-保安解雇〕
 駐留軍労務者の労働条件を定めた細目書の条項が一般私企業における就業規則のそれと同性質のものであることについては、当事者双方ともに異論がないところ、一般に解雇基準を定めた就業規則の条項は、使用者においてその恣意的な解雇から労働者を保護する趣旨に出たものと解するのが当然であり、この点は、細目書IF節Iの保安解雇基準についても同様に解せられる。ただ解雇基準を定めた条項が解雇に対してどのような規範的意味をもつかについては、すべての事業体において必ずしも一律ではなく、事業の特殊な性質、目的、組織体制その他就業規則の関連規定等を総合的に考察した上、合理的に判定せられるべきものである。
 そこで、右の見地から細目書の保安解雇基準の趣旨について考えてみるのに、たとえ保安上の危険を理由とする場合であつても、いやしくもその解雇基準が定められている以上、右基準に該当するなんらの具体的事実もないのに、あるいは他の不法な目的、動機等から右理由に名を籍りて、労働者を職場から排除することは私企業の場合と同じく許されないものというべく、かような米軍の不当要求に基いて被申請人が駐留軍労務者に対してした解雇は無効と解するのが相当であるけれども、保安上の危険やこれに関する秘密性の保持について米軍が極度に敏感であることは、その任務の性質上当然であり、保安上の危険を理由とする解雇について使用者側よりその具体的事由が積極的に明確にされるのを期待することは事柄の性質上困難というべきであるから、単に保安解雇基準に該当する具体的事実の存在が不明確であるからといつて、直ちに右解雇の意思表示が解雇基準に違反するものと断ずるのは相当でない。換言すれば、保安解雇を無効というためには、解雇基準に該当することを疑わせるような事実が存在しないことが明らかであることを要し、右のような事実の不存在についての蓋然性が証拠上認められる場合に限り、解雇基準に反するものとしてその効力を否定すべく、細目書IF節1に定める保安解雇基準の規範性は、右の限度において存するものと解するのが相当である。本件において、上述の意味における申請人の保安解雇基準不該当の事実については、その疎明が不十分であるから、解雇基準違反の申請人の主張は採用できない。