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ID番号 05439
事件名 損害賠償等請求事件/損害賠償請求事件
いわゆる事件名 日本設備事件
争点
事案概要  プログラマー・システムエンジニア等の人材派遣を目的とする会社の取締役が、同人が設立しようとする同業種の新会社への参加を勧誘することが会社に対する忠実義務違反として損害賠償を請求された事例。
参照法条 商法254条の3
商法266条1項5号
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 信義則上の義務・忠実義務
裁判年月日 1988年3月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和59年 (ワ) 7411 
昭和59年 (ワ) 8633 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 時報1272号23頁/タイムズ665号264頁/労働判例515号6頁/金融商事796号35頁/労経速報1332号3頁/法律新聞876号6頁
審級関係
評釈論文 宇田一明・昭和63年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊935〕99~100頁1989年6月/吉原和志・ジュリスト920号34~40頁1988年10月15日/近藤光男・判例評論357〔判例時報1285〕207~210頁1988年11月1日/戸塚登・判例タイムズ680号58~64頁1989年1月1日/山崎行造・A.I.P.P.I. International ed.14-4号238頁1989年10月/渡辺顕、岩下嘉之・月刊債権管理30号38~39頁1990年3月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-信義則上の義務・忠実義務〕
 原告のコンピューター事業部のように主にプログラマーあるいはシステムエンジニア等の人材を派遣する業務にあっては人材こそが会社の唯一の資産ともいうべきものであり、人材の確保、教育訓練等が会社の維持、発展のための主な課題となるものである。したがって、前三で認定したように原告の取締役である被告Y1が原告のコンピューター事業部の従業員に対し原告を退社して自己が設立しようとする同種の会社への参加を勧誘することは、それだけで取締役としての忠実義務に違反するものというべきである。
 被告らは、入社の際被告Y1とAとの間で三年後独立させる旨の約束があった旨主張するが、その約束の趣旨は前二で認定したとおりのものであって、被告Y1のとった右行為とは無縁のものであり、およそこれを適法化するものではない。
 なお、被告らは、被告Y2、B等の従業員はそれぞれ原告に対し不満があって、自由な意思で原告退社したものであり、被告Y1の勧誘とは因果関係がない旨主張する。
 しかし、前三で認定したとおり、被告Y1のほか被告Y2等原告のコンピューター事業部の従業員は、ほぼ時を同じくして一斉に、しかも退職の理由を明確に示さないか又は被告Y3会社に入社したという後の行動からして虚偽と判断せざるを得ないような理由をもって退社しその後それぞれ被告Y3会社に入社していることからすると、被告Y1の直接の勧誘あるいはこれから生じたであろうコンピューター事業部の従業員間の動揺とは無関係に右の時期に退社したものであることを認めることができる証拠があれば格別、そうでない以上、被告高田の独立への参加の勧誘という忠実義務違反行為の結果退社を引き起こしたものとみとめざるを得ないところ、右にいう証拠は存在しないので、被告らの主張は肯認する限りではない。
 したがって、被告Y1は、原告主張の七名従業員が一斉に退社したことにより原告が被った損害を賠償する義務がある。