全 情 報

ID番号 05454
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 ファイン事件
争点
事案概要  ビルの保安係に対する解雇につき、代表取締役職務代行者(弁護士)が行なったもので、商法二七一条一項にいう「常務」に属するものではないので無効という主張につき、「常務」の範囲にあるとし、業務指示違反を理由とする解雇が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
商法271条1項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1990年6月26日
裁判所名 熊本地
裁判形式 決定
事件番号 平成2年 (ヨ) 20 
裁判結果 申請却下(確定)
出典 労働民例集41巻3号505頁/タイムズ743号149頁/労働判例579号27頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 2(一) 本件解雇が「常務」に該当しない旨の主張について
 申請人らは、本件解雇は職務代行者が為すべき「常務」に該当せず、裁判所の許可なく行われた本件解雇は無効である旨主張するので検討する。
 商法二七一条一項にいう「常務」とは、当該会社として日常行われるべき通常の業務をいうが(最判昭和五〇年六月二七日民集二九巻六号八七九頁参照)、同条の趣旨は、当該会社の業務・財産に重要な影響を与える事項について裁判所の許可を必要とすることにより、職務代行者の権限を制限し、会社の運営を裁判所の監督に服せしめるところにある。してみると、従業員の解雇が「常務」に該当するか否かは一律に決せられるものではなく、会社の規模、当該従業員が当該会社の中に占める地位、解雇の目的、解雇する従業員の人数、従業員の補充の可能性等を参酌し、解雇が当該会社の業務・財産に与える影響の大きさを考慮して決する必要がある。被申請人会社は、わずかな従業員数で運営されている会社ではあるが、申請人らは何ら経営には関与しない保安係であり、右職務は代替性があり、右係員の補充は容易である。また、本件解雇の目的は、通常解雇ではあるが、その真意は職務代行者の指示命令違反を理由としており、会社の通常業務に支障をきたすことを防止することを目的としたものであることがうかがわれる。以上を総合考慮すると、本件解雇は何ら申請人会社の業務・財産に影響を与えるものではなく、むしろ会社としての通常の業務遂行を維持するための行為であって、「常務」に属するものということができる。したがって、この点に関する申請人らの主張は理由がない。
 (二) 解雇権の濫用の主張について
 本件雇用契約は、期間の定めない契約であり、職務代行者であるA弁護士は、本件解雇に際し、三〇日分の予告手当てを提供の上、申請人らに対し解雇通告をしているのであるから、本件解雇手続には何ら違法な点はない。申請人らは解雇権の濫用を主張するが、この点については充分な疎明がなく、かえって、前記1のとおり一応認められる事実に照らすと、申請人らは、遅くとも平成元年一二月二七日頃には、被申請人会社代表取締役職務代行者としてA弁護士が選任されたこと及び同人の職務執行のため被申請人会社事務室の原状回復措置が必要であることを認識しており、また、A弁護士から桑本ビルの保安係を通じて、右事務所の原状回復措置を指示されたことを了知していたにもかかわらず、保賢の指示に従う意図で樋口弁護士の指示を無視したことが認められ、また、A弁護士が申請人らを解雇した真意は、今後の被申請人会社業務の円滑な遂行に支障を生じないようにするために、職務代行者の指示に従わないことが予想される者を排除することにあったことがうかがわれるので、本件解雇には正当理由があるものと一応認められる。