全 情 報

ID番号 05468
事件名 時間外手当等請求事件
いわゆる事件名 三和プラント工業事件
争点
事案概要  海外でのポンプ据え付け工事に従事している者とその工事を施行している者との間の法的関係は、労働者派遣契約であり、雇用契約ではないとされた事例。
 時間外労働手当を派遣手当に含むとする契約は労基法三七条違反にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法37条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 派遣労働者・社外工
賃金(民事) / 割増賃金 / 支払い義務
労働時間(民事) / 時間外・休日労働 / 時間外労働、保障協定・規定
裁判年月日 1990年9月11日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (ワ) 8263 
裁判結果 認容
出典 労働民例集41巻5号707頁/労働判例569号33頁/労経速報1406号7頁
審級関係
評釈論文 高島良一・経営法曹101号72~96頁1992年10月/大橋範雄・民商法雑誌107巻3号445~453頁1992年12月/和田肇・ジュリスト987号116~118頁1991年10月1日
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-派遣労働者・社外工〕
 ところで、被告は、本件契約は訴外会社を元の注文者とすることを前提とし被告をその請負人であり下請への注文者、原告を下請とする請負契約であると主張する。しかしながら、右に認定のように原告の供給する労務は専門的な知識や技術を必要とするものではあるが、労務供給の形態が、労務の供給を受ける訴外会社の定める就業時間に従い、同社の現場総責任者の監督や指示に従いながら労務を供給することが求められるものであることや、その対価も月額という時間の長さによって決められていることからすると、本件契約が労務の供給による仕事の完成自体を目的とし、対価も完成された仕事に対して支払われる請負契約であることは解し難い。そして、右認定の事実関係からすれば、被告と訴外会社との間の前記契約は、「労働者派遣事業の運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」二六条に定める「労働者派遣契約」に該当し、原告と被告との間の本件契約は、被告が原告を訴外会社に派遣するためにその前提として締結した雇用契約であると解するのが相当である。なお、前記覚書によれば、原告を被告の従業員として出向させる旨の記載があるが、前述のように訴外会社に原告に対し賃金等の対価を支払うべき義務を負っていないことからしても、訴外会社と原告との間には雇用関係がないことは明らかであり、右当事者間に新たに雇用関係が生じるいわゆる出向とは異なるものであることは明らかである。
〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
〔労働時間-時間外・休日労働-時間外労働、保障協定・規定〕
 以上のように、本件契約は原告と被告との間の雇用契約であると解すべきであるが、そうであるとすると、本件契約の内、時間外労働の対価はすべて派遣の対価に含まれており、時間外労働に対する割増賃金は別に請求できないとした点が労働基準法三七条に違反するか否かが問題となる。
 被告は、この点につき、海外派遣の業務は現地での労働規則・慣行等が予め明らかになっているわけではなく、測り難いところが多いので、本件契約でも通常の時間外労働の分をカバーするに足りる対価を約束していたものであるから本件契約は違法である旨主張する。
 しかしながら
 〔中略〕
 原告は本件契約を締結するに当たり、被告の担当者であった右Aに現地での残業の有無につき尋ねたところ、訴外会社からあまり残業はないとの話を聞いていた同人から原則として残業はないとの説明を受けたので、それを信じ、仮に月に一〇時間程度の残業があってもサービスしようとの意思で右条項につき同意したものであり、もともとある程度残業があることを双方認識し、それを前提の上で対価を決めあるいは右約定をなしたものではないことが認められることや、仮に、本件契約による派遣の対価が被告主張のように通常の時間外労働の対価を含むものであったとしても、それが時間外労働の対価をカバーするに足るものであるか否かは、時間内労働の対価及び被告のいう「通常の時間外労働」がどの程度のものであるかが明らかにならない限り判断できないものであることからすると、その点についての明確な定めもなく、予め時間外労働の対価の請求を一切放棄させる本件契約中の前記約定は、原告にとってあまりに不利益であり、労働基準法三七条に違反し、同法一三条により無効であると判断せざるをえない。