全 情 報

ID番号 05483
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 日魯造船事件
争点
事案概要  更生計画遂行中の造船会社が退職金規定を変更して、これを減額し、一五年間の分割払いとしたことにつき、高度の合理性があると判断された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3の2号
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 退職金
裁判年月日 1990年10月15日
裁判所名 仙台地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ワ) 785 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集41巻5号846頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-退職金〕
 (三)
 〔中略〕
 更生会社における本件退職手当金規定及び労働協約の変更の合理性について検討する。(以下、就業規則の変更の問題として論じるが、これと同一内容の労働協約の変更についても、以下と同様である。)。
 (1) 退職手当金規定変更の必要性について
 〔中略〕
 当時更生会社は、更生計画遂行中の会社であり、継続する厳しい造船不況の中で、新造船の受注予定がなく、修理船だけではとうてい収支を償う事業量を確保できる見込がなく、取引先である漁業会社の倒産等により不良債権を抱え、近い将来に再び倒産することが高度の蓋然性をもって予想されたのであり、これを回避するためには、再建不能となる以前の段階で、
 〔中略〕
一層の更生債権の切下げを含む更生計画の変更を必要としていたこと、また、条理に照らしても、更生債権者らがその権利の大幅な不利益変更を余儀なくされるときに、更生会社の従業員らが従前どおりの退職手当金規定により退職金を受給できるというのでは、公平を害すること明らかであることから、退職手当金規定の見直しは、変更計画について更生債権者らの同意を得るためにも必要な措置であったことが認められ、これらの事情からすれば、当時の更生会社には、退職手当金規定を労働者の不利益に変更する合理的な必要性が存したものということができる。
 ところで、原告らは、抗弁に対する反論(一)のとおり、当時の更生会社の経済状態からすれば、更生計画及び就業規則(退職手当金規定)を変更する必要はなかったと主張する。しかし、昭和六三年六月末決算において退職給与引当金を税法上の損金算入限度額まで計上したことにより新たな繰入額として一億七二二二万円余を必要としたこと(前記乙第四六号証及び被告Y本人尋問の結果により認められる。)からも明らかなように、更生会社の財務内容は、更生計画遂行中を通じて極めて厳しいものであったと認められ、更生計画開始時に存した八○一一万円余の繰越欠損金がその後次第に減少してきたという事実もその額面どおりに理解することはできないこと、被告Y本人尋問の結果によれば、更生会社の流動資産のうち相当額を占める受取手形も取引先である漁業会社の不況を反映して、サイトが一年を越えるものがあるなど現金化の容易でないものが多数存したと認められること、更生債権の残高は変更計画認可申請当時においても約二億三○○○万円であり(これは前記乙第三号証により認められる。)、前記認定のとおり更生計画終了予定時までに発生すると見込まれていた退職金の額が二億二○○万円であることと考えあわせると、当時の更生会社の収益力からして、更生手続終了予定の昭和六七年までにその弁済を終えることは、実現可能性の乏しいものであったことが容易に看取できるのであり、原告らの右主張は認めることができない。
 (2) 退職手当金規定変更の内容の相当性について
 本件における退職手当金規定変更の内容は、前記1(二)(7)に認定したとおりであり、退職金の支払期間こそ一五年間と長期ではあるものの、年金型の退職金としては異例に長期であるというほどではないこと、旧規則により算出される退職金と比較して、原告らの中でもっとも減額率の高い者で約一五・六パーセントの減額にとどまるものであることからすれば、分割払とされることによる中間利息相当額の損失を考慮しても、労働者の退職金を受ける権利を著しく損なうものであるとまでいうことはできず、前記認定した当時の経営実情からすれば、必要やむをえない相当な範囲内のものであると認めることができる。
 ところで原告らは、
 〔中略〕
 退職金について一時払を定める就業規則を長期の分割払に変更することは、労働基準法二三条等に違反し、無効であると主張する。しかし、退職金は通常の賃金と異なり、退職後直ちに全額を支払うことを要するものではなく、すなわち、労働基準法二三条一項等の適用はないものと解され、年金型の退職金制度も許容されているのであるから、原告らの右主張は採用することができない。
 (3) 退職手当金規定の内容自体の合理性
 就業規則の変更は、その内容が特定の労働者に特別の不利益を課するなど不当なものでないことを要するものであるところ、本件退職手当金規定の変更は、その後に退職するすべての従業員に対し遅かれ早かれ一律公平に適用されるものであり、退職の時期の先後、勤続年数及び退職当時の社内における地位などにより不利益の程度に多少の差異が生じるものの、それは合理的な範囲内のものと認められるから、その内容は不当なものではないと認めることができる。確かに、原告らのように当時定年退職を目前にしていた従業員にとっては、それによる不利益は切実なものと感じられたであろうことは想像に難くないが、昭和六一年一○月二二日付で締結された労働協約(前記乙第九号証)により、変更計画認可後一年以内に定年退職する従業員については、退職時の基準内賃金の一か月分(その後に定年退職する従業員については○・五か月分)相当額を功労金として加給することとしており、労働協約の適用を受けない原告佐藤心一に対しても右功労金を支給することとしているのであるから、これらの従業員に対して一応の配慮をしているものということができる。
 (4) 労働組合との交渉経緯
 本件のような場合において、一般に労働者の意思を反映させるための手続について確立した準則は存在せず、また、これを一義的に定めることは必ずしも適当ではないと考えるが、本件退職手当金規定の変更を含む変更計画案は、前記認定のとおり、石巻分会の臨時大会において組合員の多数により賛成可決され、退職手当金規定の変更については同一内容が労働協約として締結されたこと、組合員以外の従業員
 〔中略〕
 当時の従業員数は常雇が四九名であり、組合員大会の議決に加わった組合員数は四三名であるから、六名程度がその数であり、その全てが管理職にあった者と考えられる。)のうち、退職手当金規定の変更に異議を唱えていた者は原告X以外に認められないことからすれば、退職手当金規定の変更について、更生会社労働者の多数の賛成を得ていたものと認めることができる。
 原告らは、
 〔中略〕
 被告らが退職手当金規定の変更の合理性、必要性に関する資料を示すことなく、十分検討する時間的余裕も与えぬまま右変更について同意を求めたため、石巻分会は混乱のうちに議決をしたのであるから、右議決には瑕疵が存在するとの趣旨を主張するが、前記甲第一四号証等によれば、従業員らは更生会社の厳しい実情について十分な認識を有していたこと、被告らの提案から石巻分会の議決までの間には一か月半余の余裕があったこと、その間、労使間での交渉や労働組合内部での検討が頻繁になされていたこと、また、昭和五四年の更生計画認可当時から、退職手当金規定の変更は更生会社の懸案事項となっており、被告らと石巻分会との間で再三交渉が行われてきていることが認められるのであるから、右原告らの主張は採用することができない。