全 情 報

ID番号 05499
事件名 退職金等請求事件
いわゆる事件名 ニューラテンクォーター事件
争点
事案概要  本件退職は店の閉鎖によるものであり、退職金は会社業務の都合により解雇された場合の規定による支給率で計算されるべきとされた事例。
参照法条 労働基準法24条
労働基準法89条1項3の2号
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 1990年11月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ワ) 13415 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労経速報1427号10頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 一 〔中略〕次の事実が認められる。
 被告は、ホテルAの取り壊しに伴い、同ホテルの地下で被告が営業していたB店の明渡しを迫られていたので、同店を閉鎖することにした。
 平成元年四月七日、被告代表者は、全従業員ミーティングにおいて、同年五月二七日限りでB店を閉鎖する旨発表し、その際、移転先店舗を探して全従業員を従来どおり勤務させることを約束した。
 同年五月二〇日、被告代表者は、全従業員ミーティングにおいて、移転先はクラブ「C」であることを発表した。Cは当時営業中でそこに従業員がいること、B店の二・五分の一位のスペースしかなく、勤務時間も長く、その他の勤務条件も厳しいことから、従業員の中に動揺が起こり、移転後の勤務条件や退職した場合の退職金の支給率について質問があった。被告代表者は自分は対外的なことに全力を尽くすので、会社内のことはD営業部長に相談してくれとの趣旨の発言をしたが、具体的な説明はしなかった。
 同年五月二六日D営業部長から従業員に対しB店は解散するから退職届を出してくれとの指示があり、全従業員四一名中原告らを含む二七名が退職届を提出した。
 同年五月二七日の最終営業日の点呼において、D営業部長は「解散ということになりましたので、退職金は甲欄で補償金も数か月確保しますので、営業は今日までですが、後かたづけがありますのでね、三〇日まで、最後まで頑張ってやって下さい」との発言をした。
 二 退職金の請求について
 本件においては、原告らが退職届を提出しており、形式的には被告会社の就業規則七条二号に定める「会社業務の都合により解雇されたとき」の「解雇されたとき」に該当しないようにみえるが、本件条項の趣旨は会社業務の都合により職を失う結果となる従業員に対し特に割増しの退職金を支払うことを定めたものと解すべきであるから、たとえ従業員の方から退職届を提出した場合であっても、会社業務の都合により労働条件に重大な変更があり、従業員がやむを得ず退職届を提出した場合や会社の側が従業員に対し退職届を出すように指導したために従業員が退職届を提出するに至った場合等も含めるべきである。
 前記認定事実により判断するに、原告らの勤務場所であるB店を閉鎖するということは会社側の事情であること、被告が示した移転先であるCは当時他店が営業中の店舗で従業員がいるうえに、B店の二・五分の一位のスペースしかなく、B店の従業員全部が移転できないと考えることに無理はないこと、移転後の勤務条件について被告から納得のいく説明がないこと、五月二六日になって、D営業部長が解散になったから退職届を出してくれといって、積極的に退職届を提出させたこと、五月二七日に同営業部長が退職金は甲欄で支給すると発言していることを考えると、本件の原告らは自己の都合により退職したものではなく、会社業務の都合によりやむを得ず退職届を提出し、職を失った結果となったものというべきであるから、退職金支給率表甲欄が適用される事案であると判断するべきである。