全 情 報

ID番号 05505
事件名 労働契約上の地位確認請求事件
いわゆる事件名 日産ディーゼル事件
争点
事案概要  閉鎖される工場からの配転につき反対運動をしていた者が、就業規則の解雇事由たる「やむをえない業務上の都合によるとき」に該当するとして解雇され、その効力を争った事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
労働組合法17条
民法536条2項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権
賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
解雇(民事) / 解雇権の濫用
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
裁判年月日 1991年1月25日
裁判所名 浦和地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ワ) 571 
裁判結果 認容
出典 労働判例581号27頁/労経速報1433号14頁
審級関係
評釈論文 新谷真人・季刊労働法160号205~206頁1991年8月
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
被告が被告解雇の理由として主張するところは、要するに被告川口工場の全面移転に伴って原告らが余剰人員となったことを理由とする整理解雇であるが、これが右就業規則にいう「やむをえない業務上の都合」に該当するといえるためには、少なくとも、企業の経営上人員整理の必要性があって、その必要性と被解雇者との関連性がある(人員整理の基準に被解雇者が該当する)ことを要するものというべきである。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 〔中略〕
 被告は、川口工場移転計画において、川口工場移転に賛成・協力し、転勤に同意する従業員は整理対象としないが、転勤に同意しない従業員は整理対象(任意退職または整理解雇)とするとの方針を立てていたことが認められ、この方針自体は不合理なものとはいえないところ、原告らは、いずれも川口工場の移転そのものに反対し、工場移転に対する反対運動を積極的に展開しており、移転先に転勤したくない旨を表明したばかりか、転勤同意の意思表明の最終期限である昭和六一年九月までにその意思表明をしなかったことから、被告は、原告らを整理対象者としたものであることが明らかである。
 以上のとおりであって、被告には人員整理の必要性があり、かつ原告らが整理対象の基準に該当したものであるから、原告らについて就業規則六八条一項二号所定の「やむをえない業務上の都合」に該当する事由が一応存在するものと認めるのが相当である。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 被告は、当初約三〇〇名発生する冗員を一応は移転先工場で抱える方針でいたのに対し、実際には約二〇〇名を抱えたにすぎないのであるから、原告らが同意しさえすれば、両名を移転先工場において抱えられない筈はなく、その意味において解雇権の発動を回避することが十分可能であったものと考えられる。しかるに、被告は本件川口工場移転計画の実施に当たり、従業員に対し、右移転に賛成・協力し、指示に同意する限り解雇しない(逆に同意しなければ整理対象とする)との方針を明示せず、転勤に同意するとの意思表明の最終期限が昭和六一年九月であることも何ら説明することなく、原告らに対しては右最終期限の一年以上前に行った意思確認を最後に一切意思確認を行わず、かつ異動の業務命令も出していないのであって、原告らが本件解雇の時点では転勤に同意する意思表明をしていたことを考え合わせるならば、被告は、解雇権の発動を回避するための努力を怠ったものと評価せざるを得ない。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 被告は、昭和六〇年六月に意思確認を行ったのみで、以後は原告らが移転反対運動を行っていることをもって原告らが転勤に同意しないものと認め、業務命令も出さず、整理対象としたものであって、結局は原告らが移転反対運動を行ったことをもって解雇権を発動したに等しく、信義則に反しないとの主張は採用できない。
 以上検討したところを総合すれば、本件解雇は解雇権の濫用であって無効であると認めるのが相当である。
〔賃金-賃金請求権の発生-無効な解雇と賃金請求権〕
 原告らの賃金請求は、無効な本件解雇に基づく原告らの就労不能が被告の責に帰すべき事由により生じた反対給付請求権としての賃金請求権に基づくものであるから、本件解雇処分がなければ得られたであろう賃金額を客観的、合理的に判定して確定するほかない。そうすると、本件解雇の後に労働協約によって賃金の改訂がなされたときには、原告らについても当然に同様の改訂がなされたものとして取扱われるべきである。
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
 本件では、原告らはすでにA労組を脱退して別組合たる分会を結成し、右分会との間では労働協約がなされてはいないが、A労組が原告ら以外の大多数の従業員で構成される組合であることからすれば、労働組合法一七条により、A労組との労働協約の一般的拘束力が原告らにも及ぶものと解される。そして、昇給制度は具体的な個人に対して査定による加減を行うものではあるが、無効な解雇によって就労を拒否された結果、査定の基礎となる資料及び実績などを欠いている本件においては、原告らは、少なくとも平均昇給率の限度で右昇給についての労働協約の効力を享受するものと解するのが相当である。もとより、従前の査定結果によって現実に就労していない期間の査定を推定することも可能ではあるが、査定はその査定期間の資料に基づいてなされるものであるから、過去の査定をもって直ちに将来の査定を推定することは相当ではないというべきである。