全 情 報

ID番号 05518
事件名 労働契約確認等請求事件
いわゆる事件名 国鉄清算事業団(鳥栖保線区)事件
争点
事案概要  上司に対して、怒号・罵声をあびせ暴行に及んだこと、業務命令を無視し、業務を妨害したこと等を理由になされた旧国鉄職員に対する懲戒免職処分の効力が争われた事例。
参照法条 日本国有鉄道法31条1項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の根拠
裁判年月日 1991年2月22日
裁判所名 佐賀地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ワ) 102 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労働判例582号8頁
審級関係
評釈論文 新谷真人・季刊労働法160号211~212頁1991年8月/石井将・労働法律旬報1263号16~20頁1991年5月10日
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の根拠〕
 3 原告の行為が国鉄法三一条一項二号に該当する場合に懲戒処分として同項に規定されている免職、停職、減給及び戒告のうちどの処分を選択するかについては明文の規定がなく、その選択は懲戒権者の裁量に委ねられていると解するのが相当であるが、その裁量はもとより恣意にわたることは許されず、特に、免職処分の選択については、被処分者の受ける不利益の重大さに鑑み慎重な配慮が必要であって、懲戒事由に該当する行為の動機、態様、結果、当該職員の行為前後の態度、処分歴、社会的環境、選択する処分の及ぼす影響等諸般の事情に照らし、免職処分が当該行為との対比において著しく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものである場合は、右免職処分は、裁量の範囲を越え、懲戒権の濫用にわたるものとして効力を有しないというべきである。
 〔中略〕本件処分当時被告の経営状態は思わしくなく、その再建策の一貫として労使慣行の見直し及び職場規律の確立に被告が全力をあげていたことが認められるが、右事情は前記基準における社会的環境のひとつとして考慮されるにとどまり、右事情をもって、懲戒権の裁量の範囲をことさら緩やかに解することはできない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 本件処分が前記基準に照らし懲戒権の濫用にわたるものであるか否かについて検討するに、前記1記載の原告の行為が、安易にこれを容認できないものであることはいうまでもないが、前記認定によれば、A区長及びB首席助役に加えられた暴行の態様は、原告の左上腕部及び上半身を相手の上半身に打ち当てるというものであって、比較的軽微なものであること、業者に対し工事中止とも受け取られかねない言動をした件も、業者に明確に工事中止を指示したわけではなく、また、業者の常識的な対応によって工事中止の事態には至らなかったことを指摘することができる。
 〔中略〕従前原告が所属する国鉄労働組合(以下「国労」という。)と被告とは「現場協議に関する協約」を締結し、これに基づき、各現業機関ごとに、当局側、組合側同数の委員により構成される現場協議機関が設置され、当該現場の労働条件に関する事項であって、当該現場でなければ解決しがたいもの及び当該現場で協議することが適当なものについて協議がされていたこと、鳥栖保線区においては、毎月二回の現場協議が開催され、その席で当局側から翌月の作業計画について説明がなされ、組合側が意見を提出して作業内容を具体的に調整していたこと、ところが、右現場協議が組合の当局糾弾の場となっているとして被告が右協約の更新を拒絶したためこれが失効した昭和五七年一二月一日以降、労使間の問題は現場において協議しないとの方針をとる被告とこれに反発する国労との対立関係が深刻化したこと、もっとも、右現場協議制度がなくなった後も、原告の所属する土木テーブルにおいては、土木助役が翌月の作業計画を立案しこれを作業担当の職員に個別的に伝達する過程において、職員からの質問に助役が回答したり、職員の意見が作業内容に取り入れられることもあったこと、しかし、昭和五八年三月二八日土木助役に着任したCは、担当職員に対し業務指示をするに際し、担当職員との意思疎通を欠いたまま一方的に指示し、その反発を受けることが少なからずあり、C土木助役と原告ら土木テーブル職員との関係は険悪であったことが認められ、右認定によれば、1において認定した原告の各行為は、前記のような本件処分当時の被告と国労の深刻な対立を背景とし、六月一日朝の点呼時におけるA区長からの四項目の伝達がいわば一方的になされたことを契機とした一連の行為であって、原告にとっては、従前の労使関係を性急に変更しようとする被告に対する抗議行動の意味合いを有するものであったということができる。
 5 もっとも、〔中略〕原告は1で認定した行為のほか、昭和五八年三月二八日鳥栖保線区本区に着任したC土木助役が、着任早々、原告の担当する工事を請け負っている業者からの工期変更の申出を承認するに際し、直接の担当者である原告に相談しなかったことに強く反発し、同助役に対し「新任のあいさつをせよ。」「土木助役と認めない。」等の発言をし、更に、翌二九日にも同助役の業務指示に従わず、同助役に灰皿を投げつける等の行為をしたこと及び昭和五八年四月二五日午前一〇時ころ、原告は、D職員、E職員、F職員とともに、原告の担当する筑後千足こ線橋工事の杭打工法の変更をC土木助役が原告を排して直接請負業者に指示したとして、右件につきA区長、C土木助役の見解を聞くため区長室内の応接テーブルを囲んで同人らと話し合いをしたが、右話し合いの中で、C土木助役が原告に対して「Gは…」と言ったことから憤激し、同助役に対し「お前はまた言うか。」と怒鳴ったうえ、応接テーブルの向かって左角部を蹴飛ばしたため、同テーブルの角が原告の正面にいたC土木助役の左膝に衝突し、同部に軽度の挫傷を負わせたことが認められ、それぞれ職員としてあるまじき行為ではあるけれども、一方において、担当者である原告に相談せず工期変更を承諾したり、原告を呼び捨てにしたりしたC土木助役の不適切な対応が原告の右各行為を誘発していることは否めず、右各行為を原告のみの責に帰することはできない。
 6 また、〔中略〕原告は本件処分以前に懲戒処分を受けたことがないこと及び担当業務は真面目に遂行しているとの評価を得ていたことが認められる。
 7 以上によれば、本件処分は、その懲戒事由である前記各行為との対比において甚だしく均衡を失し、社会通念に照らし合理性を欠くものであるから、懲戒権の裁量の範囲を越え、懲戒権の濫用にわたるものとして効力を有しないというべきである。