全 情 報

ID番号 05665
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 北陸電設工業所事件
争点
事案概要  電気設備工事の請負会社の従業員が、工場内の金属配電線の切替工事に従事していて高圧線に触れて感電死し、遺族が損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法715条
労働者災害補償保険法23条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償
裁判年月日 1976年5月14日
裁判所名 富山地
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (ワ) 78 
裁判結果 一部認容,一部棄却(控訴)
出典 時報833号105頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 1 前記二の事実によれば、原告Xがその手で触れた本件ケーブルヘッドのテーピング部分は、それを固定していたアームと近接した距離関係にあり、またその位置が本件ケーブルヘッドより上部約六〇センチメートルに位置するため、本件ケーブルヘッドが六、六〇〇ボルトケーブルの通電しているバックフィルタ配電線であることを認識していない場合、本件電柱の最上段のアームから、本件ケーブルヘッド付近まで移動する際に、右テーピング部分にその身体が触れる蓋然性が極めて高いことが推認し得る。
 従って、訴外Aとしては、本件ケーブルヘッドの移設作業を指示する場合には、本件配電線が通電している六、六〇〇ボルトのものであることおよびそのための作業方法を指示すべき業務上の注意義務があるというべく、本件事故は、前示認定のとおり、これを怠って何ら右指示をせず、漫然と右移設作業を原告Xに命じた訴外Aの過失に基づくものといわざるを得ない。
 2 そして、被告が訴外Aの使用者であることは当事者間に争いがなく、また、本件事故が被告の事業の執行につき生じたものであることは、前記一、二の各事実により明らかである。
 3 そうすると、被告は民法七一五条により本件事故によって原告らが蒙った損害を賠償する義務があるというべきである。
 四、原告Xの過失
 原告Xが、本件事故当日の作業開始前に、当日行なう作業が三、三〇〇ボルト電線に関するものであるため、作業中三、三〇〇ボルト電線は停電する旨本件作業を指揮し、監督する訴外Aから告げられていたこと、また、訴外Aから本件ケーブルヘッドの移設作業を指示された際、本件配電線が、通電している六、六〇〇ボルトケーブルのバックフィルタ配電線である旨の指示を受けなかったことは、いずれも前記二のとおりである。従って、本件事故当日行なう作業が三、三〇〇ボルト電線に関するもので作業中同電線が停電する旨告げられている原告Xとしては、本件ケーブルヘッドの移設作業を命じられた際、何ら特別の指示を受けていない以上、六、六〇〇ボルトならば指示があるはずと信頼し、本件配電線が停電している三、三〇〇ボルトケーブルのバックフィルタ配電線であると確信し、その確信に基づき移動する際、本件配電線のテーピング部分にたまたま触れたとしても、そこに何らかの過失があるとは到底解し難い。
 なお、被告は、原告Xが命綱をつけておれば、本件事故による受傷の程度は右手掌電撃火傷に留まる旨主張する。
 しかし、前記のとおり、本件事故は、原告Xが本件電柱上において、前記のとおり移動する際に生じたものであるとともに、《証拠略》によれば、本件事故当時作業員に支給されていた命綱は右のような移動中の使用に適さないものであったこと、また、当時、移動中における命綱の使用は、通常行なわれていなかったことが認められ、原告Xが本件事故の際、命綱を使用していなかったからといって、同原告に過失があるとは認め難い。
 よって、原告Xには、原告らの損害の算定に当って斟酌されるべき過失はないものと解するのを相当とする。
〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕
 しかるところ、原告Xが受給した前記金員の内、その(一)は本件請求外の損害に対する賠償の内払と考えられ、また、その(四)は労働者災害補償保険法二三条に規定する保険施設として支給されるもので、民法上の損害賠償と同一の事由に基づく支給とは解し得ないので、右各金員を原告Xの前記損害額から控除するのは不相当であるが、その余は休業補償ないし後遺障害による喪失利益に対する賠償の内払として原告Xの前記損害額から控除すべきものと解するのが相当である。
 〔中略〕被告は、原告Xが将来受給することが確定した労災給付金についても現価に引き直して本件損害額から控除すべき旨主張するが、長期傷病特別支給金については前述の理由から控除の対象とならないし、その他の給付金については、支給額の変更等将来の蓋然的性質にかかわる点から考えて、口頭弁論終結時までに現実に支給された分に限って損害から控除すべきものと解するのが相当である。